熟練医師の問診ノウハウを詰め込む

 最初に登壇したメトロネットは、筑波大学のNPO法人「筑波総合診療ネットワーク」との産学連携によって2015年12月に設立されたベンチャー企業。こうした背景から、冒頭に代表取締役社長の福田哲夫氏が簡単な挨拶をし、続くプレゼンテーションは顧問を務める筑波大学 地域医療教育学教授の前野哲博氏が担当した。

メトロネット。奥が代表取締役社長の福田氏、手前が筑波大学教授の前野氏
メトロネット。奥が代表取締役社長の福田氏、手前が筑波大学教授の前野氏
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 同社が目指しているのは、健康ナビシステムの事業化。具体的には医師が鑑別診断を行う際の思考をシミュレートした臨床推論アルゴリズムを開発。本アルゴリズムを搭載するアプリケーションソフトを開発中で、既に「問診ナビ」の名前で特許を出願している。代表の福田氏は「セルフメディケーション、プライマリケアにおいて、医師から手軽にアドバイスを受けられる業界初の健康サポートツール」を自負する。

 概要を説明した前野氏は、総合診療科の医師として地域住民に最も近い立場で日々の診療に携わる。冒頭、前野氏は「一般の人が体調不良になった場合、適切な行動を取るためには専門的な医学知識が必要」と力説しながらも、その知識がないために受診が必要なのに我慢してしまったり、夜中に気軽に受診してしまう“コンビニ受診”が頻発したりしている現状を指摘。「この問題をデジタルヘルス技術を用いて解決したい」と述べた。

 予定されるアプリの画面には「頭痛」「関節痛」「しびれ」などといった主訴(患者が最も強く訴える症状)が24項目表示され、該当する項目を選択した後に「いつからですか」「どこが痛みますか」「急に始まりましたか」などの質問に答えていく。医師として25年の経験を持つ前野氏のノウハウを集約したもので、「総合診療科である私が外来で聞きたいことを、聞きたい順番に、聞きたい選択肢で表示されるように作成してある」(前野氏)とした。

開発中のアプリ入力画面イメージ
開発中のアプリ入力画面イメージ
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 質問に答えた結果により、レッドフラグ(すぐに受診すべき)、イエローフラグ(できるだけ早く受診すべき)、グリーンフラグ(少し様子を見てもよい)の3段階のアドバイスが出力される。一般利用者の教育を兼ねている点もユニークだ。「例えば秒単位で突発する頭痛の場合、くも膜下出血を疑うべき。その場合、なぜ疑わなくてはならないかが表示されるので、利用者の学習ツールとしても利用できる」(前野氏)。

 医療従事者にとっても利点がある。それぞれの質問項目をフレーズでつなぎ合わせて1つの文章として出力する機能を備えており、その内容をカルテに貼り付けて医師が使える質を担保している。「病院に行った際にすぐに見せれば、瞬間的に医師が最もほしい情報が適切に伝わる。あるいは医師がいない介護施設、または在宅で患者が不調な場合、電話で文章の内容を伝えれば、医療者は重要な情報をすぐに入手することができる」(前野氏)。質問の内容は一言で済んでしまう平易なものだけに、翻訳も容易。外国人とのコミュニケーションツールとしても有効だとした。

 なお、この健康ナビシステムはあくまでも病院にかかることをアドバイスするツールであり、前野氏は「医師の決断を肩代わりするものではない」ことを強調。今後はデータベース化を図りながら、より一層アドバイスの精度を高めていきたいとした。