救急の現場では、患者一人の入院に対して、入院診療計画書や処置同意書など、大量の書類を医師が作成しなくてはなりません。カルテに書いた内容を、4~5回繰り返し入力するような作業が求められます。医師にとってはこれに要する時間、そして心の負担がとても大きい。

東京女子医科大学東医療センター 救急医療科 救命救急センター 医師の赤星昂己氏(写真:加藤 康、以下同) 
東京女子医科大学東医療センター 救急医療科 救命救急センター 医師の赤星昂己氏(写真:加藤 康、以下同) 
[画像のクリックで拡大表示]

 患者の退院時もそうです。転院先の病院をリストアップしたり、電話をかけて転院の調整をしたりする作業に加えて、診断書や紹介状、患者に保険がおりるようにするための書類などを作成しなくてはなりません。

 こうした負荷をいかに軽くするか。医療補助を担う方にお願いできる部分はないかと考えますし、そこにICTが介入できる余地があるのではないかとも思います。もし書類作業から解放されれば、医師にとっては1日に数時間が浮く。心の負担はそれ以上に軽くなり、医療そのものにもっと集中できるはずです。

長期的メリットを可視化しよう

 医師の仕事の一部を今後、ナース・プラクティショナー(NP)のような存在に担ってもらうという方法はあり得るでしょう。

※医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療を行える看護職を指す。米国などで先行して導入されており、日本でも医療現場の働き方改革に向けて導入の議論がある。

 ただし実際の現場では、さまざまな手技がある中で、どこまでをNPに任せられるかを判断するのはかなり難しいと思います。NPと特定看護師の役割の違いひとつをとっても、まだ明確とは言えません。こうした不明瞭さがあると、NPが医師に代わる行為を現場で積極的に担うのは難しいのではないでしょうか。

[画像のクリックで拡大表示]

 タスクシェアリングやタスクシフト、そしてICT。こうした客観化や情報化の仕組みをうまく取り入れ、医師の働き方改革につなげている病院は確かに存在します。一方、そうでない病院もある。両者の違いはどこにあるのだろうと、日々疑問に思っています。

 例えば医療補助を担う人員を増やすといった方法でもいいのですが、医師の負担を減らせそうな手段が仮にあっても、(病院の経営サイドに)それを認めてもらうことは容易ではありません。一時的にコスト増などを招いても、長期的にはプラスになるということを目に見える形でいかに示せるか。これがポイントではないでしょうか。(談)