(記事の原題は、「試行錯誤のなかから十字ボタンを見いだす~ファミコンはこうして生まれた【第5回】)
ソフトを決めた上でハードを開発
携帯型ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」は、製造本部開発第一部部長(現職)の横井軍平(敬称略、以下同)が、新幹線の車中で、電卓で遊ぶサラリーマンを見て、「大人が人知れず車中に持ち込んで楽しめる小さなゲーム機」を思い立った。
この製品の具体化に向け、技術を担当したのが製造本部 開発技術部部長(現職)の岡田智である。新しいゲーム機作りが大好きな岡田は、液晶ディスプレイと電卓用マイコンの採用を決める。
2人は、ゲーム機上でプレイするゲーム・ソフトを決めたうえで、ゲーム機のハードウエアの開発を始めたのである。まず、ゲームのシミュレーションを考えた。
このため、板にゲームの画面の絵を書いて、光る部分をくり抜いた模型を作った(図1)。こうして板の裏に配置したランプを光らせる。ランプはコンピュータに接続されており、プログラムの指示でランプを点滅させる。岡田が模型を作り、模型上の絵は横井が描いた。コンピュータの画面上でゲームを実現する方法もあるが、これだとテレビ・ゲームとイメージが似てしまうのでやめた。
のちに、この模型はゲーム&ウォッチのソフトウエア開発ツールとして受け継がれることになる。「液晶に表示する画像パターンを描くと、ゲーム機を試作するのに数カ月かかるが、板を使った模型を利用すると2~3日で出来上がる」(岡田)からである。開発費用も安く抑えられる。