政府はこのほど、診断や治療に人工知能(AI)を活用する「AIホスピタル」の実現に向けた研究開発計画を発表した。AIが臨床にどのように役立ち、医師の働き方はどう変わるのか。プロジェクトディレクターを務める、がんプレシジョン医療研究センター所長の中村祐輔氏にその未来像を聞いた。

 AIやIoT(モノのインターネット)、ビッグデータを活用することで、先進的な医療サービスを提供することを目指す──。そんな目的で、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つとして始動したのが、「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」のプロジェクトだ。

 SIPのディレクター公募に選ばれ同プロジェクトを主導するのが、米シカゴ大学名誉教授でゲノム医療の第一人者として知られる中村祐輔氏だ。プロジェクト遂行のため、今年6月にシカゴ大学教授を辞し6年ぶりに帰国した。

 中村氏は20年来、個別化医療を実現するための研究を進めてきた。しかし、医療現場では蓄積された情報を活用しきれておらず、個別化医療は実現できているとは言い難かった。「医療現場にかかる負荷が増大していることも個別化医療の実現を妨げている」と同氏は指摘する。こうした状況を打破するために、中村氏は数年前から医療現場にAIを取り入れ、医師の負担を軽減しながら個別化医療を実現する構想を練っていた。そんな折にAIホスピタルのプロジェクトが始動したため、公募に応募したというわけだ。

 AIを活用することで「医療現場の効率化を図り、医療従事者の抜本的な負担軽減を実現することを狙う」と中村氏は意気込む。医師の負担が軽減できれば、医療の質を担保することにもつながる。2022年度末までに10のモデル病院を作ることを目指す(図1)。

図1 「AIホスピタル」の全体像(提供:中村氏、図2も)
図1 「AIホスピタル」の全体像(提供:中村氏、図2も)
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