蛍光物質を投与し、癌や血管、リンパ節を術中に光らせて手術成績を向上させる──。そんな蛍光ガイド技術の保険適用範囲が今年1月に拡大し、「日本蛍光ガイド手術研究会」も立ち上がった。従来の血管造影と異なり、術中にリアルタイムで見たい組織を特異的に光らせる新技術は、外科領域のスタンダードとなりそうだ。

 蛍光ガイド手術とは、蛍光物質を投与することで、肉眼では見えない構造や機能を手術中にリアルタイムに可視化する蛍光イメージングを用いて行う手術のこと。手術を高精度かつ安全に行うため、乳腺外科や消化器外科など様々な領域で活用されている。診療科の枠を越えた情報共有を実現するために、このほど大規模な研究会が立ち上がった。

写真1 日本蛍光ガイド手術研究会第1回学術集会の様子(提供:日本蛍光ガイド手術研究会)
写真1 日本蛍光ガイド手術研究会第1回学術集会の様子(提供:日本蛍光ガイド手術研究会)

 それが、2018年1月1日に立ち上がった日本蛍光ガイド手術研究会だ。同年4月7日には、「テイラーメイド手術を実現する蛍光イメージングの可能性」と題して、第1回となる学術集会を開催した(写真1)。研究会では、蛍光ガイド手術のガイドラインの制定や、蛍光物質の保険収載の支援を行っていくという。

 研究会には、賛助会員として研究者や企業のエンジニアも参加する。日本蛍光ガイド手術研究会副代表世話人を務める東京大学附属病院肝胆膵外科・人工臓器移植外科講師の石沢武彰氏は、「臨床医と研究者がコミュニケーションを図れる場にすることで、蛍光ガイド手術の発展に寄与したい」と意気込む。

 蛍光ガイド手術の最大のメリットは、「手術中にリアルタイムで癌や血管、リンパ管を見ることができること」と日本蛍光ガイド手術研究会代表世話人を務める京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学教授の戸井雅和氏は言う。癌やリンパ管の位置に関しては、術前の検査でシミュレーションを行うが、術前のイメージを目の前の臓器に頭の中で重ねることは容易ではない。

写真2 蛍光ガイドのイメージ(提供:石沢氏) カラー像に蛍光像を重ね合わせることで、カラー像だけでは見えない大腸癌肝転移の位置が明瞭に抽出されている。
写真2 蛍光ガイドのイメージ(提供:石沢氏) カラー像に蛍光像を重ね合わせることで、カラー像だけでは見えない大腸癌肝転移の位置が明瞭に抽出されている。
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 見たい組織が光る「道標」となれば、患者の血管走行や癌の広がりなどを手術中にリアルタイムに把握できる。術前に検査画像で確認していた血管や癌の位置を実際の術野で把握することは「実は難しい」(石沢氏)からだ。実際の術野では癌が臓器の奥にあったり、血管が脂肪に隠れていたりすることもある。

 見たい組織が光ることで可視光像よりも患者の状態を的確に捉えることができ、「より患者に適した手術が実現できる」と石沢氏は言う。例えば、癌の実際の分布を術野に表示できれば、切除予定だったが既に切除範囲外まで癌が広がっているから切除を中止するといった判断を行える可能性がある。