わずか0.5mLの血液からアルツハイマー病変を超早期に検出する――。そんな技術を島津製作所と国立長寿医療研究センターが確立した。その成果は、2018年2月1日(日本時間)に英科学誌Natureオンライン版に掲載された(関連記事1)。

 実は今回の成果には、島津製作所の田中耕一氏(同社 田中耕一記念 質量分析研究所 所長でシニアフェロー)が発明し、2002年度のノーベル化学賞を受賞した質量分析技術が使われている。現在、アルツハイマー病など認知症の早期発見に向けた取り組みは数多く進んでいる(関連記事2)。こうした中、今回の成果はアルツハイマー病の診断や治療にどう寄与する可能性があるのか、田中氏など開発チームに話を聞いた。

島津製作所 田中耕一記念 質量分析研究所 所長でシニアフェローの田中耕一氏
島津製作所 田中耕一記念 質量分析研究所 所長でシニアフェローの田中耕一氏
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アミロイドβの量を推定できる

 今回の手法で血液から検出するのは、アミロイドβというたんぱく質である。質量分析技術を応用することで、脳内に蓄積しているアミロイドβの量を推定することができるという(詳細は別掲記事「【技術の詳細】3つの工程でアミロイドβの量を推定」を参照)。

 アミロイドβは、アルツハイマー病を発症する10~30年前から脳内に蓄積し始めるとされるたんぱく質である。これまでアミロイドβの脳内蓄積を検出するためには、PET(陽電子断層撮像法)検査や脳脊髄液(CSF)検査が行われていた。しかし、PET検査は高額でCSF検査は侵襲性が高いという課題があった。今回の手法を用いれば、低侵襲かつ安価にアミロイドβを検出できる可能性がある。

 さらに、アルツハイマー病など認知症の診断補助への活用も考えられる。認知症は複数の種類があり、症状だけではどの認知症なのか判別できない場合がある。アミロイドβが蓄積しているかを調べることで、アルツハイマー病か否かを判断する補助となり得る。こうした応用については、早期の実用化を目指しているという。