内視鏡画像を人工知能(AI)が解析し、わずか0.4秒で腫瘍か非腫瘍かを識別する――。そんな大腸内視鏡診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN(エンドブレイン)」が医療機器として国内で承認された。米国でAIを用いた診断支援システムの承認が相次ぐ中、日本でもようやくAIを用いた医療機器の臨床現場への登場が見えてきた。

 AIを医療に応用する研究が世界各所で進んでいる。米国では2016年12月に、米FDAがAIなどの技術を積極的に取り入れた医療機器を早期に承認する法律を制定。その後、AIを用いた診断支援のシステムが相次いで開発され、2018年4月には眼底カメラで撮影した画像から糖尿病網膜症かどうかをAIを用いて診断するソフトウエアが承認された。

 日本でもAIを用いた診療支援システムの開発は進んでいる。国立がん研究センターは2018年7月に、AIを用いて内視鏡画像から早期胃癌を検出する方法を確立したと発表。ベンチャー企業のエルピクセルもMRA画像からAIを用いて未破裂動脈瘤や血管狭窄を見つけたり、胸部X線画像から確認すべき所見を見つける技術の開発を進めている。

 そんな中、情報システム大手のサイバネットシステムは、昭和大学や名古屋大学と共同で、大腸内視鏡画像からAIを用いて腫瘍かどうかを判断するシステム「EndoBRAIN」を開発。2018年12月にクラスIIIの高度管理医療機器として承認された。日本でAIを用いた診断支援システムが承認されるのは初めてとみられる。2019年内にも、オリンパスが発売する見込みだ。

 EndoBRAINは、オリンパスの超拡大内視鏡「Endocyto(エンドサイト)」を使って520倍倍率で撮影した大腸内視鏡画像をAIで解析し、腫瘍である可能性をわずか0.4秒で数値として出力するソフトウエアだ。大腸ポリープが腫瘍かどうかの判断について、病理診断に対する正診率が98%、感度は97%で、「専門医に匹敵する精度」(昭和大学横浜市北部病院消化器センター長の工藤進英氏)を実現した。

図1●大腸内視鏡診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN」を使ってポリープが腫瘍かどうかを判断する流れ(取材を基に編集部作成)
図1●大腸内視鏡診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN」を使ってポリープが腫瘍かどうかを判断する流れ(取材を基に編集部作成)
 超拡大内視鏡「Endocyto」を使って520倍倍率で撮影した検査画像をAIが解析し、腫瘍である可能性を瞬時に%で出力する
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 大腸にできるポリープの3~4割が過形成性ポリープ、炎症性ポリープ、若年性ポリープなど非腫瘍性のもので、これらは原則切除する必要はない。だが、臨床現場での腫瘍と非腫瘍の鑑別正診率は70%から80%程度にとどまっており、非腫瘍だと思って放置したポリープが治療が必要な腫瘍だったり、非腫瘍性ポリープを切除してしまうことがあった。そもそも、「非専門医が施術する際には、腫瘍か非腫瘍かの判断ができず、全てのポリープを切除してしまう場合もある」(昭和大学横浜市北部病院消化器センターの三澤将史氏)。切除を行えば出血や穿孔といった合併症のリスクが伴うため、「不必要な治療は減らすべき」と三澤氏は語気を強める。EndoBRAINが腫瘍かどうかの判断をサポートすることで、非専門医が抱えるこうした課題を解決できる可能性がある。