医師でありながら薬局の経営に携わっているため、薬剤師の在り方に非常に興味を持っています。薬剤師の仕事は現在、“薬を患者に出すまで”という前提に基づいてビジネスモデルが組まれていることが多いです。しかし、本来薬剤師が専門家として学んできた薬学の知識は「薬理学」や「薬物動態学」など薬が体に入った後のこと。こうした知識を生かし、薬を服用した後の患者の状況を薬剤師が見るようになれば、より適切な薬の処方につながるのではないかと考えています。

ファルメディコ 代表取締役社長 医師・医学博士の狭間研至氏(写真:加藤康、以下同)
ファルメディコ 代表取締役社長 医師・医学博士の狭間研至氏(写真:加藤康、以下同)
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 そんな仮説を10年前に立て、慢性心不全の患者に対して次のような実証実験を行いました。89歳の独居患者に体重計と血圧計を使ってもらい、測定したデータが医師である私と、担当薬剤師の携帯電話に送られるようにしたのです。処方した利尿薬や強心剤を服用した後の血圧や体重、脈拍のデータを私と薬剤師でモニタリングしました。その結果、薬剤師が見てもきちんと評価できることがわかったのです。これは大きな発見でした。

 低侵襲なバイタルサイン測定器の開発が進んでおり、近い将来には得られたデータを高いセキュリティーの中で簡単にシェアできるような時代が来るでしょう。ただし、測定したデータを全て医師に送るという仕組みは、難しいように思います。

 そこで提案したいのが、まずは調剤を担当した薬剤師が薬剤の効果の判定や副作用のチェックを行う仕組みです。医師から薬剤師へ役割をシフトすることで、医師は空いた時間を活用した一歩先の医療サービスが提供できるでしょう。薬剤師だけでなく、管理栄養士や看護師を含めた非医師へのタスクシフトは今後可能性があると見込んでいます。

時間と空間のギャップをほぼゼロに

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 タスクシフトによって、今までとは違う役割の分配を行う際に、ICTが使えるのではないでしょうか。さきほどの体重計や血圧計を導入した事例では、決断のタイミングが明確に早くなったことを実感しました。2週間に1度の診察時にしか見られなかった患者の記録を、ほぼ毎朝見ることができるため、決断のタイミングが前方にシフトしたのです。これは在宅の患者をゆるく診ていく際には有効だと考えています。

 ICTを活用する一番の利点は、時間と空間のギャップをほぼゼロにすることだと思っています。すなわち、そこにいないと得られないとかその時間でないと見られないということをなくすことができるのです。医療においては、それによって決断のタイミングが早くなる。これこそが最大の利点だと感じています。

 医師は常に何らかの決断を迫られます。そのとき、情報はあればあるだけ決断を助けます。これまでは患者が診察室に来ないとわからなかった体重の変化や聴診の音を、ITによって遠隔地にいても自分の端末で見ることができれば、医師が決断を下すまでの時間を短くすることができるのです。

■変更履歴
記事初出時、「薬医学」とあったのは「薬理学」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。