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 ニューロン(Neuron)または神経細胞は、脳を構成する最小単位であり、端的には信号を受け取り、別のニューロンへまた送り出す役割をしています。機械学習の「ニューラルネットワーク」と呼ばれる分野では、ニューロンの振る舞いを思い切り簡略化したものが使われますが、実際のニューロンは非常に複雑な振る舞いをします。今回はニューロンの概要を見ていきましょう。

 ニューロンが信号をやりとりする経路には、他のニューロンから信号を受ける樹状突起(dendrite)と、他のニューロンに信号を送る軸索(axon)があります。二つをまとめて、神経突起(neurite)と呼ぶこともあります。樹状突起から入力刺激が入ってくると、細胞体の内部で活動電位が発生し、これに応じて電気信号が軸索を伝わっていきます。これがニューロンの基本的な動作です(図1)。

図1 神経細胞の概要
図1 神経細胞の概要
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入力が樹状突起、出力が軸索

 次に、樹状突起と軸索を細かく見てみましょう。図1を見てお分かりの通り、入力である樹状突起は細胞体から何本も枝分かれしていますが、出力である軸索は1つしかありません。ただし、その軸索も先端が枝分かれして、いくつかの細胞へ同時に信号を送ることがあります。

 樹状突起は神経細胞からまさに木の枝、あるいは根のように伸びている突起です。細胞体からすこし太めの樹状突起が何本か生えていて、個々の樹状突起がさらに枝分かれしていくことで、多い場合で数千~数万もの樹状突起を形成します。神経細胞への入力は、すべてこの樹状突起を介して行われます。いわば、神経細胞の情報の入口にあたる部分です。

 軸索は樹状突起とは逆で、神経細胞の出力信号が伝わる部分です。先述のように1つの細胞体からは1つの軸索が出ています。長さは1mmにも満たない場合もありますが、時には1m以上にも及びます。例えば、脊髄から足の筋肉まで伸びている運動神経繊維など(=末梢神経系)です。軸索は、しばらく伸びていったあとは、樹状突起のように枝分かれした構造になっています。ここで他の神経細胞の樹状突起と結合(この部分がシナプスと呼ばれる)し、新たなネットワークを作るのです。

 ただし、軸索と樹状突起をつなぐシナプスは、直接融合するような接続とは違います。実はここにはシナプス間隙(synaptic cleft)という隙間があり(20nm程度)、両者は電気的には結合していません。電気信号を使う代わりに、神経伝達物質のやりとりという化学的な方法で信号を伝えています。