設計を基本から見直す

 プロトタイプのシステムは、2014年4月に開催された「ハノーバーメッセ2014」で公開された。Infineon Technologies社とSiemens社、ZF Friedrichshafen社、Institute of Lightweight Engineering and Polymer Technology at the Technical University Dresden(ドレスデン工科大学軽量工学・高分子技術研究所)が共同開発したものである。

 MotorBrainの研究チームは、モーターとインバーター、コントローラーの間のインターフェースアーキテクチャーを抜本的に設計し直し、これらの部品をスマートフォン程度の価格で、ノートパソコンを持ち運ぶためのバックパックに収まる程度の大きさに一体化した。これにより、電動パワートレーンの大幅な性能向上につながるとともに、50%のインバーターの軽量化と30%のコスト低減が可能になる。

 プロトタイプシステムは、モーターと高性能センサー、マイコン、パワースイッチ、受動部品で構成する。モーターとギアドライブ、インバーターの一体化によって、電動パワートレーン全体の質量を、プロジェクト開始当初の90kgから77kg未満へと約15%削減した(図2)。

図2 小型モーターの分解図
モーターとギアドライブ、インバーターの一体化によって、電動パワートレーンの質量を当初の90kgから77kg未満へと約15%削減した。
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 その結果、電池の出力をより効率良くxEVの走行に利用できるようになり、航続距離の延長が可能になる。今回開発した出力60kWのモーターを中型のEVに搭載すれば、1回の満充電で走行できる距離が、現在のEVの平均値である約150kmから、30~40km長くすることができる。

 さらにMotorBrainの研究チームは、xEVのコストを左右する大きな要因の一つである「レアアース磁石」を使用せずに、プロトタイプのモーターを開発した。レアアース磁石は多くのモーターに使われており、強力な磁界を安定して発生させる上で重要な要素部品となっている。発生する磁界が強いほど、モーターの性能は向上する。

 プロトタイプのモーターには、「Nd-Fe-B(ネオジム・鉄・ホウ素)系」や「Sm-Co(サマリウム・コバルト)系」などのレアアース磁石よりも入手しやすく、より安価なフェライト磁石を使用した。ただし、フェライト磁石の性能はレアアース磁石よりも劣る。そこで、高速回転型ローターを使うことで、その性能差を補った。設計上のモーターの主な要求性能は下記の通り。

  • 最高出力:55kW以上
  • 最高回転数:1万1000rpm以上
  • 最大位相電流:100Arms
  • 最大線間電圧 :360V
  • 最大トルク:170N・m以上