小売電気事業者やサービス事業者は、BルートやCルートで得られる使用電力量のデータやHEMSから得られる住宅内の各種データ、それ以外のビッグデータを組み合わせることで、新しいサービスを提供できる可能性がある。少し考えただけでも、流通小売り、宅配、高齢者見守り、地域エネルギーマネジメント、ホームセキュリティ、機器メンテナンス、医療、ヘルスケア、介護、教育、観光、食事など、連携分野は多岐にわたる。

 大手電力・ガス会社の中には、既に使用電力量データに基づく高齢者見守りサービスを始めたところがある。ベンチャーなど外部との連携事例では、関西電力が2017年1月に始めた試みが挙げられる。スマートメーターから得られる30日分の使用電力量データから普段の生活リズムを推定。当日のデータと照合し、異変があると判断すると、自動で見守り者へ通知するサービスである。奈良県立医科大学との共同研究で、特許出願中だ。

 関西電力は、冷蔵庫の開閉状況や、分電盤内の専用センサーの情報に基づく見守りサービスも、合わせてスタートしている。いずれも、ベンチャーとのコラボ事業であり、前者はソリッドアライアンス(東京都中央区)、後者は志幸技研工業(東京都荒川区)と組んでいる。

ベンチャー育成には外部サポートが欠かせない

 エネルギーベンチャーは、持続的な活躍の土俵がようやく整いつつある。この動きを確実なものにするため、外部からのサポート体制の充実が不可欠である。ベンチャーを取り巻く関係者は多いが、中でも金融、専門サービス、行政、メディアへの機能強化が欠かせない。

 金融分野では、各種の金融機関で業界専門家の育成も必要である。ベンチャーキャピタル、証券会社、銀行には、専門知識と人脈を備え、エネルギーベンチャーを成長支援できる金融人材が不足している。また、この分野の上場企業が少ないため、エネルギーベンチャーを専門にカバーする証券アナリストがほとんどいない。ネットワーク構築や勉強会の実施など、金融業界を挙げた取り組みが求められている。金融業界に身を置く筆者も微力ながら貢献していきたい。

 専門サービス分野では、法律家や会計士、人材紹介、コンサルタントなどが必要だ。エネルギーベンチャーを支援する専門家は分散しており、それぞれが孤軍奮闘している。専門分野を横断するネットワークが必要だ。

 行政に対しては、補助金や公的ファンドによる資金供給だけでなく、情報インフラの整備を期待している。例えば、ベンチャー投資時のリファレンス調査プラットフォーム作りを提案したい。ベンチャーキャピタルが投資検討する際のリファレンス調査を支援するため、業界や制度に関するデータベースの整備や、ヒヤリング先になる業界専門家や技術研究者の紹介システムなどを公的に整備する。こうした枠組みがあれば、有望なエネルギーベンチャーへの適切な評価を下支えできる。

 そしてメディアには、企業ニュースや政策動向の情報発信だけでなく、エネルギーベンチャー育成の視点で、このような外部サポート機能の結節点としての役割を果たしてもらいたい。エネルギーベンチャー支援で活躍する専門家の事例紹介や、ネットワーク構築のためのイベント開催などが必要ではないか。

 エネルギーベンチャー復活を支える構造変化は、いよいよ本格化している。この萌芽を潰さないためにも、エネルギーベンチャー自身の内的変化と外部サポート機能の強化が必要だ。この動きが持続的なものになることを強く願っている。

高橋 浩明(たかはし・ひろあき)
野村リサーチ・アンド・アドバイザリー 調査部主任調査員
1988年、野村総合研究所に入社、証券アナリストとして自動車と機械業界の大手企業を調査。1996年より現在まで、環境エネルギー分野の産業調査とベンチャー支援を担当している。再生可能エネルギーや電力ビジネスなど数多くのベンチャーを取材。エネサーブ、ファーストエスコ(現エフオン)、エナリス、イーレックスなどの株式上場でリサーチ担当として支援に関わった。趣味は歴史と旅行と読書(ミステリー小説)。日本酒とウイスキーをこよなく愛する。