「電気料金が使い勝手の良い“財布”だと思われていないだろうか…」。ある大手電力幹部は電力システム改革を巡る最近の議論の風潮に疑問を呈す。

 ほぼ全ての国民が毎月支払う電気料金は、いわば税金のような存在だ。2016年4月の電力小売り全面自由化に伴い、いまも経過措置という位置付けで残ってはいるものの、総括原価制にもとづく規制料金が撤廃された。これにより電気の「値付け」については、お上の規制ではなく、小売事業者が自由に決められる裁量が大幅に広がったことになる。

 とはいえ、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の賦課金に代表されるように、特定の政策目的にもとづいて電気料金の一部として負担を求めるものについては、しっかりとした説明が欠かせない。その原則は今もなんら変わらない。

 この点で思い起こされるのが2016年の騒動だ。福島第1原子力発電所事故の賠償費用の一部を託送料金に織り込み、新電力の需要家からも回収する案が経済産業省から提起され、世論の大きな反発を招いた。

 原子力事故が現実に起きたことで、賠償資金を確保しておく制度に不備があったことが明らかになった。その問題意識から、事故以前に本来積み立てておくべきだった賠償費用を、過去に原子力の電気を使ったことがある人、つまり沖縄を除く全国の需要家で負担するという曲芸に近い理屈を組み立て、2020年から40年間かけて約2.4兆円分を託送料金に上乗せして回収することが決まった。

北海道のブラックアウトがトリガー

 経産省は当時、この制度変更が託送料金値上げにつながらないよう、大手電力に送配電部門の経営合理化で影響を吸収するよう求めた。それでも原子力を持たない新電力の顧客が賠償費用の負担を求められる理不尽さはぬぐいがたい。国会でもその正当性が厳しく問われた。

 託送料金はネットワークの利用料として電気料金に含まれ、大手電力、新電力を問わずすべての需要家が負担するお金だ。その使い道には徹底した説明責任と透明性が求められる。そんな当たり前の現実を、政策当局に突き付ける出来事だった。

 ところが、ここに来て電気料金が、再び強い「値上げ圧力」にさらされようとしている。

 1つ目のトリガーになりそうなのが、北海道で2018年9月に起きたブラックアウトだ。北海道と本州を結ぶ連系線(北本連系線)の容量がもっと大きければ、停電を防げたとの反省から増強議論がにわかに盛り上がってきた。

 ブラックアウト前からあった計画に基づき、今年3月には60万kWから90万kWに容量が増える見通しだが、電力広域的運営推進機関が追加の増強について昨年末から議論を始めた。