かつて国営だったJR各社が民営化を経て、収益事業体としての歩みを進めている。特に、本州3社と呼ばれるJR東日本、JR東海、JR西日本は、駅隣接の商業ビルや改札内での小売業態「駅ナカ」が大きな利益を生み、高収益企業として資本市場からの評価も高い。本業の鉄道事業の成長性は期待しにくいが、事業の多角化によって十二分に魅力的な企業になった。今後、大手電力会社が成長していくためにも、JR各社の取り組みは参考になる。

 日本の大手電力会社の場合は既に民間会社であるため、旧国鉄から民営化されたJR各社とは異なるが、規制事業を本業としていた企業の事業が自由化されるという面では共通している。

 第二次世界大戦に伴う電力事業の国家管理の時代を起点に考えれば、どちらも1社の国営会社が地理的に分割・民営化され、事実上の地域独占体制となった経緯は類似している。また、地域独占とはいえ、全国送電網や長距離鉄道路線(新幹線など)が地域をまたいで運営されている点も似ている。

 もう少し具体的に鉄道事業と電気事業の共通点を見ていくと、どちらも社会インフラストラクチャー事業であり、いわゆる規制事業である。

 収益確保のための総括原価主義に基づく料金設定が認められていたものの、実際には競争上の理由と社会的な要請から値上げは容易ではなかった点も共通している。さらに、大規模設備投資を円滑に行うための資金調達の手段として、一般担保付社債の発行が特別に認められており、それが自由化に伴い廃止とされた点も同じだ。

 大手電力各社は、かねてリスクの極めて小さい事業を手掛けてきたがために、財務構成のあり方も、少ないリスクとリターンに対応して、負債主体の財務レバレッジが高いものになっている。そして、そのことが電力自由化の時代の事業展開にとって、大きな制約となるということを「大手電力の資金調達に潜む時限爆弾」「大手電力が“役所的”になったのは必然だった」で解説した。

 負債に過度に依存したリスクの大きい財務構成では、新たな投資家を呼び込む新規の収益事業を確立するのは難しく、また一方で、新たな収益源がなければ、負債を返済し資本を厚くしていくことが困難だからである。

不動産賃貸と小売りは大手専業並みの利益率

 鉄道事業は当初から多大な設備投資が求められる一方、営業地域の人口動態の動向によっては構造的な低収益に苦しむ可能性もある。

 先進国も含めて、設備保有と事業運営の双方を含む旅客鉄道事業で安定的な収益を上げるのは困難であると認識されている。世界的にも鉄道事業が安定した高収益を上げているのは、輸送密度の極めて高い地域で事業を行う日本のJR本州3社と大手民有鉄道(私鉄)、および東京地下鉄(東京メトロ)などに限られる。

 なかでもJR本州3社は本業である鉄道以外の事業(多角化事業)でも高い利益を上げている。

 JR東日本を例にとれば、同社の多角化事業は大きく2つある。1つが、「ショッピング・オフィス事業」だ。駅やその周辺に所有する土地を開発してビルを建て、店舗やオフィスとして賃貸する事業である。

 そして、もう1つが「駅スペース活用事業」、いわゆる「駅ナカ」だ。主として「改札内」の空間に展開する小売業や飲食業のことである。一般的な呼び方では、前者は「不動産賃貸業」、後者は「小売業」ということになる。JR東海とJR西日本も、同様の事業を手掛けている。

 これら2つの多角化事業で、JR本州3社はそれぞれの事業の大手専業他社と遜色ない利益率を示している。まず不動産賃貸業に関して、三井不動産、三菱地所、住友不動産といった大手不動産会社の賃貸事業と比較してみる。