広域機関の企画部と運用部は、未確定のシステム仕様が散見されることを問題視し、合同で課題検討会を立ち上げた。電力小売り全面自由化の約7カ月前、2015年8月28日のことである。業務とシステムの立場から課題を共有する場がようやく設けられたわけだが、議論に責任を持ち対処について判断を下す担当者がおらず、会議体は事実上、形骸化した。

 こんなことがあった。

 広域機関の運用部の担当者が企画部の担当者に対し、業務ルールの一部について、システムによる運用の先送りを打診した。広域機関システムの仕様がなかなか固まらないうえ、日立の開発作業も遅れを挽回できない状況で、すべての業務ルールに対応した機能をシステムに実装するのは困難と判断したためだ。2016年4月の全面自由化までに広域機関システムを動かすことを重視する運用部としては、開発工数の増大と、さらなる作業の遅れにつながるような業務ルールを可能な範囲でそぎ落とそうと考えた。

 しかし、企画部からの合意は簡単には得られなかった。システムへの実装を先送りすれば、その機能については手作業で業務を遂行する必要が生じることになる。その点を企画部は懸念したようだ。2016年4月の段階で完成していなくても差し支えのない一部の機能の実装は見送った。だが、最終的には、全面自由化に伴い新規参入する小売電気事業者などへの利便性を重要視する企画部に押し切られる格好で業務ルールはおおかた維持された。

 広域機関システムの仕様の大掛かりな変更や追加が2015年秋以降に多発したのは、運用部と企画部の足並みがそろっていなかったことが一因である。運用部と企画部の方針の違いを調整して解決策を決める統括責任者が不在だったため、実装する機能の見直しは限られ、システム仕様は基本的に“充実”する一方となった。そして統括責任者の不在に起因して、システム仕様の変更・追加が多発した2015年秋から、日立はシステム品質の維持・向上に不可欠な仕様書や設計書の管理を放置するようになった。

利用者教育の体制不備が混乱を招く

 広域機関システムの開発プロジェクトには、統括責任者の不在に加えて、もう1つ無視できない問題があった。システム利用者に対する教育体制の不備だ。

 新たなシステムを導入する際、本番稼働前に利用者教育を実施することが少なくない。利用者が正しくシステムを使えるようになることは、システムを期日通り完成させるのと同じくらい重要だからである。

 利用者教育は、かなり古くから指摘されているシステム開発プロジェクトの重要テーマの1つ。前提となる問題意識がシステムトラブルとは異なるが、ある記事の一節を引用したい。