開発期間:猶予は2年未満、手戻り覚悟でスタート

 電力全面自由化を決めた「電気事業法等の一部を改正する法律」(第2弾)が国会で成立したのは2014年6月。自由化のスタートは22カ月後の2016年4月である。これをみて、「開発期間は2年近くもあった」という指摘があるかもしれない。だが、それは意地悪が少し過ぎる。参考までに、前出の東証の株式売買システムの場合、2012年12月にプロジェクトをスタートさせから本番稼働まで約2年10カ月をかけた。

 大手電力に許された託送業務システムの開発期間は2年未満。しかも、その期間をフルに開発に生かせる状況ではなかった。法律が成立した段階で、託送料金(送配電網の使用料金)に関する制度などの詳細が固まっていなかったためである。

 電気事業法の改正と同時に託送業務システムの開発プロジェクトをスタートさせたとしても、肝心の制度が固まらなければ、ITシステムの処理内容や実装する機能を詳細に決めることができない。処理内容や機能が決まらない、すなわちITシステムにどういった処理をさせるか見当がつかない状態では、プログラムを作れないことは言うまでもない。

 限られた期間と見えない制度に、大手電力のIT部門が早くから焦りを覚えていたことは容易に想像できる。

 例えば、関電は電気事業法改正に先んじて、2014年4月に託送業務システムの開発プロジェクトを正式に発足。その1年ほど前から、自由化で先行する欧米の電力業界の調査を進めてきた。自社の託送業務システムに求められる新機能や改修など、全面自由化に伴う開発プロジェクトの内容に当たりをつけるためである。事前調査の結果を踏まえ、関電は「高圧向けに運用してきた既存の託送業務システムを改良し、低圧分野に不可欠な機能を満たす」という大方針をプロジェクトの立ち上げ当初から固めていた。

 システムの要件定義に不可欠な制度の内容が固まっていないなか、仮説と想定を駆使して進めるプロジェクトに、どれだけリスクがあるか。ITシステムの開発に携わった経験があれば、不安が頭をよぎるだろう。

 それでも、とにかく手を動かす必要に迫られた。関電IT戦略室情報通信センター電力流通システムグループの木村健吾担当課長は、「不測の事態が発生しても対処できる期間を十分に確保する必要があった」と振り返る。そのためにも、既存のシステムをなるべく活用するという大方針の下、開発プロジェクトを早期に立ち上げるしか道がなかったのである。