システム規模:東京証券取引所に迫る膨大な処理件数

 1年365日、毎日1億8984万件――。これは、全国10社の大手電力会社が運用する託送業務システムが計算している使用電力量の30分値の最大処理件数である。中でも需要家数が多い東京電力エリアと関西電力エリアの処理件数は非常に多く、1日当たり東京電力パワーグリッド(東電の送配電事業会社)で9875万件、関電で4013万件にのぼる計算だ。

 いずれも広域機関が公表した2017年5月末時点のスイッチング開始申請の件数を基に概算した数値なので、厳密には同時期の30分値の処理件数はこれよりも少なくなる。電気の利用者宅にスマートメーターが未設置の場合、大手電力がスマートメーターや通信設備を新たに設置するなど、託送供給が実際に始まるまでに1カ月間程度のタイムラグが生じるからである。契約の切り替えが完了した実績数は、開始申請件数より10%余り少ないとされる。それでも全国で400万件近くのスイッチング開始申請があった現在、大手電力各社の託送業務システムが日々、膨大な量の計算を処理していることには違いない。

 業務や処理の内容が異なる他のITシステムと単純比較するのは必ずしも適切ではないが、託送業務システムの処理の規模感をイメージするために、敢えて1つの例を挙げたい。世界三大証券市場の一つ、日本取引所グループの東京証券取引所が運用している株式売買システムである。

 東証は2015年9月、注文件数の急増や、短時間に集中する傾向が強まってきた注文に耐えられるようにすべく、新たな株式売買システムを稼働させた。1日に2億7000万件の注文をさばけるよう設計した新システムは、世界屈指の処理性能を誇る。

 全国の需要家による電力会社の契約切り替えが今より170万件ほど増えると、大手電力各社の託送業務システム全体で、東証の株式売買システムと同等規模の処理を30分値の計算だけで実行することになる。そうなる日は遠くない。スイッチング開始申請の件数は毎月25万~30万件で増え続けており、2017年末には1日あたりの計算量が全国で2億7000万件を超える公算が大きい。