【質問2】 80%削減を国内だけで達成しようというわけではないのですね。とはいえ、企業が相当な削減を求められることに変わりはありません。大手電力会社が、京都メカニズムに基いて海外から大量のクレジットを買ったことが頭をよぎります。パリ協定も、目標達成のために、最後はカネで解決・・ということになるのでしょうか。

【回答2】 温暖化対策に関する様々なコストに価格を付けることで排出削減を促す方法を「カーボンプライシング」と言います。そして、カーボンプライシングは、「明示的カーボンプライシング」と「暗示的カーボンプライシング」に大別できます。日本で導入済みの制度や税について、整理してみましょう。

実は既に結構なコストを負担している
実は既に結構なコストを負担している
カーボンプライシングの分類
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 CO2を1トン分、排出する際に発生する価格を明示的に示す政策的手法を「明示的カーボンプライシング」といいます。代表例が「排出量取引」と「炭素税」です。

 排出量取引は、「キャップ・アンド・トレード」と言われます。事業所ごとに排出量の上限枠(キャップ)を定めてその遵守を義務づけ、排出枠が余る企業と排出枠を超える企業との間での排出枠取引(トレード)を認めることで、排出量の総量を管理する政策的手法です。日本では、国単位での排出量取引は実施されていませんが、自治体単位では東京都と埼玉県、京都府が実施しています。

 炭素税とは、化石燃料の炭素含有量に応じて課税する方法です。化石燃料は燃焼するとCO2を発生します。そこで、化石燃料そのものや、化石燃料を利用した製品・サービスの生産・消費に係る価格を引き上げることで、CO2排出量を抑制する政策的手法です。

 経産省の報告書は、「日本には価格引上げ効果を狙った炭素税は存在しない」としています。ただ、近い政策手法として、石油石炭税の上乗せとして課税される「地球温暖化対策のための税」(温暖化対策税)、石油石炭税(本則税率部分)、揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、軽油引取税、電源開発促進税といった、エネルギー諸税を挙げています。

 このうち温暖化対策税は、税収を活用して地球温暖化対策を強化することを目的としています。化石燃料の種別によらず、炭素含有量に比例した課税を行うことから、世界銀行の調査などでは炭素税とみなされることもあります。

FITや非化石市場もカーボンプライシング

 これに対し、「暗示的カーボンプライシング」は、その順守や目標達成のための必要投資額が企業や家庭に対して明示されないものの、実質的には排出削減のためのコストが上乗せされる可能性を持った施策のことを言います。例えば、「省エネ法のベンチマーク制度」、「産業界の自主行動計画に基づく業界目標」などが暗示的カーボンプライシングにあたります。

 大手電力会社と主要新電力で構成する「電気事業低炭素社会協議会」は、CO2 原単位で0.37kg-CO2/kWhという削減目標を掲げています。1kWhの電気を発電するのに0.37kgのCO2を排出したという意味です。排出係数とも呼ばれます。CO2排出量が多い業種では、こうした自主的な目標を掲げることが少なくありません。

 また、「固定価格買取制度(FIT)」も暗示的カーボンプライシングと言えるでしょう。FITの主な目的は、エネルギー自給率の向上にあります。このため、FITにおける回避可能費用や賦課金といった負担は、CO2排出量に比例した経済的負担とは位置付けられていません。しかし、間接的にはCO2削減のためのコスト加重要因として機能しています。