洋上風力発電を取り巻く環境が慌ただしくなっています。政府は3月9日、洋上風力に関する新法案を閣議決定しました。欧州では既に再生可能エネルギーの主力として導入が進む洋上風力ですが、日本ではまだ実証実験止まり。今回の法案成立は日本での洋上風力の普及にどの程度の影響があるのでしょうか。西村あさひ法律事務所川本周弁護士に解説していただきます。

【質問1】新法案の中身はどういったものなのですか?

【回答1】法案の名前は、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律案」と言います。閣議決定後、国会に提出済みで、通常国会での成立を目指して審議される見込みです。この法律案の目的は、洋上風力発電プロジェクトの後押しにあります。大きく2つの意義があります。

 第1に、一般海域において洋上風力発電設備を設置するための海域利用について、必要となる許認可手続が明確になりました。

 これまで、港湾区域や漁港の区域など一定の海域については、法令によって占用のための手続が定められていました。しかし、これらの法令の定めのない海域、いわゆる「一般海域」については、占用のための法的な手続が明確ではありませんでした。

 海面下の土地は「国の所有する法定外公共物」という位置づけになりますが、法定外公共物の管理について定めた法律はなく、一般海域の管理権の所在すら明確ではありませんでした。

 実務上は、都道府県の条例に基づいて占用許可が与えられていましたが、これらの条例は洋上風力発電事業を想定したものではないため、占用の期間が短く、占用料などの条件も統一されていませんでした。

 今回の法改正で、一般海域に洋上風力発電設備を設置するための占用許可手続が整備され、最大30年間の占用の道筋が開かれる見込みです。

 第2に、一般海域を占用して洋上風力発電事業を実施する事業者を選定するためのプロセスを定めています。拙速な“早い者勝ち”を防ぎつつ、漁業関係者など利害関係者との調整を行うプロセスも盛り込まれています。

【質問2】事業者選定のプロセスについて教えて下さい。

【回答2】政府が一定の海域を「促進区域」として指定したうえで、「公募占用指針」を策定します。促進区域は、自然条件や港湾の利用可能性、漁業への支障の有無などを踏まえて定めます。公募占用指針は、占用の開始時期、参加者の資格に関する基準、共有価格(売電価格)の上限額、FITの調達価格の決定方法、FITの調達期間、選定された事業者のFIT認定申請の期限、選定の評価基準などを定めたものです。

 この区域で洋上風力発電事業を実施しようとする事業者は、「公募占用計画」を作成し提出します。公募占用計画には、発電事業の内容及び実施時期、発電設備の構造、工事実施の方法、維持管理の方法、工事の時期、発電設備の出力、供給価格、資金計画及び収支計画などを記します。

 政府は、各事業者から提出された公募占用計画が所定の要件を満たしているかを審査します。審査を通った公募占用計画の中から「発電事業の長期的、安定的かつ効果的な実施」を可能とするための、最も適切な計画を提出した事業者を促進区域ごとに選定し、その公募占用計画に認定を与えます。

 評価のプロセスの詳細は定められていません。ですが、港湾法の占用公募制度で実施されているプロセスを参考とすると、公募占用指針が定める事業者の選定基準は、公募占用計画の評価項目ごとに配点や採点基準を設定し、これに従って公募占用計画を評価すると思われます。また、FIT調達価格の入札をも兼ねた手続きとみられることから、事業者が提案する供給価格も、重要な評価項目として取り扱われると推測されます。

【質問3】今回の法律案による事業者選定プロセスと固定価格買取制度(FIT)の関係について教えてください。

【回答3】法律案とFITは密接に連携しています。通常、FITの調達価格は、年度ごとに調達価格等算定委員会の意見を踏まえて政府が決定していますが、新ルールが適用される洋上風力発電については、通常のFIT価格とは別の方法で決定します。

 新ルールは、洋上風力発電事業の事業者選定とFIT調達価格の入札を一体的に行うことを予定しているようです。洋上風力発電事業者は、公募占用計画に供給価格、つまりFITにより売電する価格(円/kW時)も併せて記載して提出し、公募占用計画の選定は、この供給価格も踏まえて評価されるものと思われます。

 太陽光発電において既に開始している再エネ特別措置法における調達価格の入札は、各参加者が入札する供給価格のみで落札者が決定する仕組みでした。ですが、一般海域の洋上風力発電事業に導入される「入札制度」は、これとは異なる制度であることに留意が必要です。