こうしたアプローチは、電源を保有している発電事業者にとって、ある意味の特権と言えるものだ。この特権を利用したオペレーションは、商品取引などの世界でABT(Asset Backed Trading)とか、AOT(Asset Optimization & Trading)などと呼ばれている。

 これは、保有するアセット(資産)の価値を市場価格との関係から、より高める考え方だ。元来、石油備蓄や精製設備の価値を引き上げる目的で適用していたアイデアだが、発電設備にも十分応用できる。

 この発想のおかげで、優秀な発電設備ほどスポット市場からだけでなく、先渡市場の価格水準や変動(ボラティリティ)からも固定費を回収する機会が広がることになる。

新電力にも大きなメリット

 また、先の事例では限界費用と先渡市場の価格との比較で説明したが、この場合の“限界費用”は、スポット市場への売り入札価格となる1日当たりのごく短期的な限界費用である必要はない。3カ月や半年といった対象期間に応じて発生する費用、例えば起動費や保守費、人件費を上乗せして考えてもいい。そういった売値水準で売却できれば、より確実に固定費を回収できる道が広がる。

 では、買い手となる新電力からはどう見えるであろうか。

 毎日、スポット価格の変動にさらされながら、やむなく高値でも買わねばならない事態の改善が大いに期待できることになる。スポット市場において高値で買わされるリスクを考えれば、当該電源の限界費用+αで購入することになっても、より長期で安定的な電力調達の比率を増やすことにつながる。先渡取引の増加は、新電力にとっても望ましいことだろう。

 先渡市場の活性化でこうした課題の解決に見通しが立ちはじめると、相対取引や先物取引のニーズも顕現化が進み、本来の電力自由化の取り組みがようやく軌道に乗る。

 先渡市場の活性化は売り手である大手電力の発電部門にとっても、買い手である新電力にとっても、メリットは大きい。現在バランス停止にある火力発電所も、運用の見通しが立てやすくなり、国内の発電資産の有効活用につながる。

 大手電力から新電力への需要家シフトは、電力自由化の進展とともに今後も進行していく。市場を介して供給力シフトを効果的に実施できなければ、国内経済を巡る血液循環が滞ることになる。それがもたらすものは卸電力価格の高騰であり、貴重な電源の停止や廃止である。

 BS火力を有効に市場投入できる環境整備や関係者の努力を期待したい。