柔軟に電源を運用でき、収益機会が増える

 では、発電事業者が先渡市場を活用して収益を確保するにはどうしたらいいのか。事例で紹介したい。例えば、6カ月後に電気を販売する契約を既に締結している発電事業者が、限界費用X円/kWhの電源Aを保有していると想定する。6カ月後までただ遊ばせておくのは、いかにももったいない。

(1)仮に、今後の6カ月で先渡市場の価格水準が電源Aの限界費用より高くなると予測される場合は、残存期間6カ月の先渡取引を市場に売り出すタイミングを探る。

(2)1カ月経った時点で、予測通り先渡価格が上昇したとする。そして、それ以降の先渡価格が限界費用以下に低下すると予想される場合は、残存期間5カ月となった電源A相当分の先渡取引を先渡市場で売却する。その結果、残り5カ月は電源Aの限界費用以上の価格で売れることが確定する。
 仮に市場価格が予測通りに下がらず、売値(持ち値)より高くなった(含み損が発生した)としても、先の先渡取引を買い戻せば、自社で保有している電源Aが発電した電力を高値で売れる状態になり、損失を打ち消して収益性を確保することになる。電源Aを稼働させることで当初から契約していた電力販売に特段支障はない。

(3)さらに1カ月経った後、先渡価格が低下し、電源Aの限界費用より安い水準になったとする。その場合、残存期間4カ月となった先渡取引を改めて買い戻し、先渡取引による収益性を確保する。

(4)さらに1カ月経った後、先渡価格が上昇し、電源Aの限界費用より高い水準になったとする。その場合は残存期間3カ月となった先渡取引を改めて売却し、電源Aの収益性を再び確保する。

バランス停止を回避し、収益機会を増やす
バランス停止を回避し、収益機会を増やす
先渡取引を活用した収益向上策
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 このように、先渡取引の変動を電源の限界費用と比較しながらオペレーションすると、6カ月後に単純に相対契約の相手に電力を販売する場合に比べて、以下のような経済的メリットや発電設備運営上の柔軟性が生まれる。

・6カ月後に契約先に電気を販売する前の段階で、電力市場の水準と市場価格の変動次第で、追加的な収益を得ることができる。

・先渡取引が買いポジションにある場合、収益性を確保したうえで、電源の点検を実施することも可能(電源を稼働させなくていい)。

・6カ月後に電気を供給する際には、自社電源を動かすか、先渡取引を経由して購入した電気を販売するか、より経済的に有利な選択ができる。

・スポット市場のような短期の限界費用(燃料費相当)ではなく、人件費などを含む中長期の高い水準の限界費用に見合う取引を広げられる可能性がある。