今年7月、新電力トップF-Power(エフパワー、東京都港区)の社長に就任した埼玉浩史氏。これまで一切メディアに姿を見せなかった埼玉氏だが、日経エネルギーNextの単独インタビューに応じ、赤字の理由を語った。(「F-Power埼玉社長が初独白、120億円赤字の真相」)。その埼玉社長は「電力全面自由化から2年半が経過した今、電力業界は岐路を迎えている」と断言する。電力業界で今、何が起きているのか。F-Powerの進む道とは。

「大手電力の供給力独占はなんら変わっていない」と話す埼玉会長(写真:的野弘路)
「大手電力の供給力独占はなんら変わっていない」と話す埼玉会長(写真:的野弘路)

――電力業界が岐路を迎えているとはどういうことなのですか。

埼玉氏 電力自由化が正しい方向に進むのか、再び独占時代に戻るのかという重要な時を迎えています。全面自由化から2年半。自由化初期から次のステージに向かう岐路だと感じています。

 そう考えるようになったきっかけは、2017年10月の終わりから始まった冬の日本卸電力取引所(JPEX)の価格高騰です。この異常さは一体何なのだろうと。そして、この夏の異常さ。もう少し言うと、北海道の異常さ。

 北海道エリアは全国の縮図です。電力需要が増える夏と冬だけでなく、端境期まで高値になっています。この状況が是正されずこの冬も高値になったら、当社も含めて複数の新電力が北海道から撤退するでしょう。ほかにも、事象を上げたらキリがありません。東京エリアの夜間が10円/kWhを超えるなど高値となっていることは、大手電力が供給力を絞っている証左でしょう。

 問題なのは、これだけ異常な状況になっているのに、明確に楔を打ち込む人がいないこと。大手電力が供給力独占をしている各エリアにおいて、本来、新電力に供給力が回ってこないはずがないのです。エリア内の需要が極端に減っているわけではなく、大手電力から新電力に離脱しているだけですから。それなのに、新電力に適正な価格で供給力が回ってきていないということは、何かが起きているということです。ここに楔を打ってもらわないと小売事業者は安心して事業をやれません。

 新電力の責任として、もちろん供給力確保義務は果たします。ただ、本当は玉(電力)があるのに市場に玉が出ない状況は解消してほしい。これは新電力が、みんな思っていることです。

 最近では需要家(顧客)にも「このまま自由化は終わるのではないか」と不信感が出始めている。とにかく電力市場の透明性を高めて、情報公開を進めてほしい。

大手電力の域外事業は新電力と同条件のはず

――いまの状況では新電力は戦えない、このままでは独占時代に戻ってしまう、と。

埼玉氏 そうです。ただし、「大手電力VS新電力」というバーサス構造には再定義が必要です。とうにそういう構図ではありません。

 大手電力の子会社が域外で手がけるビジネスと、F-Powerをはじめとする新電力のビジネスは本来、同条件のはず。ところが、バックに大手電力の供給力がある場合と、電力市場を使いながら供給力確保義務を果たす新電力では、まったく状況が異なります。

 昨今、大手電力が新電力に出資したり、卸供給するケースが増えています。新電力側に大手電力が入って来ることによって、再び大手電力による独占体制になりかねない状況です。

――日本における電力自由化は、何をもって完成と言えるのでしょうか。

埼玉氏 その質問は、誰に聞いても答が出てこないでしょう。例えば、電力市場の流動性が何%になれば自由化は完成なのかと問うても、「分かりません」という状況です。目指すべきところが5%なのか、10%なのか、それとも30%なのか。決めなくてはいけないと思う。

 今は、「前より新電力のシェアが増えたね。自由化は進んでいるよね」という整理だけ。自由化、規制緩和の先に何があるのかを、そろそろ見せていかないといけない。

 例えば、「9電力体制」というけれど、「日本に電力会社は9社もいらないよね」という暗黙知があります。金融自由化の時は「大蔵省は13行を潰さない」と言われていましたが、結果として3行になりました。

 こういう将来を見据えたときに、大手電力の域外での撃ち合いに一体、何の意味があるのでしょうか。域外で他電力から顧客を奪い、自地域で他電力を迎え撃つ。新電力は横に置かれて、大手電力だけでやっているわけです。そこに採算性の議論などはなく、取ったら取り返すだけの話です。

――政府は全面自由化に向けた制度設計を進める中で、大手電力同士の域外競争を大きな目的にしていたフシがあります。

埼玉氏 政府は長年、9電力体制を崩すことができませんでした。「新電力が参入すれば独占よりは良い」という発想だったのでしょう。でも、本当の意味での自由化は、そういうものではないはずです。

 個人的な考えですが、小売りの世界は完全なる自由市場で、自由に出入りできるマーケットであるべきです。そして日本の電力自由化は、小売りの自由化を「自由化」と称して規制緩和の中心に置いている。

 ところが、大手電力による供給力独占は、全面自由化後も何ら変わっていません。「大手電力による供給力独占を認め、それを前提に制度を考える」というのならば理解できる。ですが、政府から、こういった方針に関する発信は一切ありません。どれくらいの人が、この自由化は大手電力の供給力独占を崩さないものであると認識しているのでしょうか。