独立系新電力として販売電力量を伸ばし続け、2018年4月に新電力トップに躍り出たF-Power(東京都港区)。2009年にファーストエスコから事業譲渡を受け、新電力事業に参入した当初から、実質的な経営トップだったのが埼玉浩史氏だ。
 日本興業銀行(現みずほ銀行)出身でF-Powerの株主であるIDIグループを率いる。かねてF-Powerの会長でもあった人物だが、メディアに姿を見せることはなく、ベールに包まれた存在だった。その埼玉氏が7月、F-Powerの会長兼社長に就いた。日経エネルギーNextの単独インタビューに応じた思いとは。(聞き手は山根小雪=日経エネルギーNext編集長)。

これまでメディアに姿を見せることがなかった埼玉浩史氏が語った言葉とは・・(写真:的野弘路)
これまでメディアに姿を見せることがなかった埼玉浩史氏が語った言葉とは・・(写真:的野弘路)

――F-Powerの創業以来、実質的な経営トップでありながら、今までメディアに出ることはありませんでした。

埼玉氏 これまではF-Powerの会長でしたが、7月に会長兼社長に就任しました。会長と社長では位置づけが違います。会社について私が責任を持って発信していく必要がある。新電力からの発信が少なくなっているということへの危機感もあります。今、新電力が置かれている状況を伝えたい。

――そもそも、創業から10年近くが経って初めて社長に就いたのはなぜなのですか。2018年6月期決算は3期ぶりに赤字に転落。しかも120億円という巨額の赤字だったため業界内に衝撃が広がりました。これが社長交代の理由ですか。

埼玉氏 赤字の原因は、端的にいえば冬の電力市場価格の高騰ですから、この数字になることは少し前から分かっていました。社長に就いた大きな理由です。

 電力全面自由化から2年半が経過した今、電力業界は岐路に立っています。難局といってもいい。ここでいう難局とは、F-Powerにとっての難局であり、新電力が生き残っていくための難局です。さらに、日本のエネルギー業界の自由化の難局であり、役所の立場からしたら、自由化の制度設計の難局でもある。大手電力も今後、経営は難しさを増していきます。

 電力全面自由化から2年半、非常に重要な時期だと考えています。ここはそう簡単には乗り切れません。電力業界に対する責任もある。次のステージへの道筋を付けるために、自分自身が出ていくべきだと判断しました。

――10月15日に発表した2018年6月期決算は、売上高は前期の1255億円から1599億円と増収でした。ですが、大幅な減益となり、前期の純利益7億円から120億円の純損失に転じています。これだけの赤字となった原因は。

埼玉氏 120億円の赤字のうち60億円は、2017年1~2月に日本卸電力取引所(JEPX)で異常な高値を付いたことが原因です。市場価格が電力の需給の範ちゅうを超え、歪んだ高値となったことが最大の要因です。

 そして、残り60億円のうち、影響が大きかったのが、原油価格の高騰を読み違えたことによるプライシングのミスです。多くの新電力が大手電力と同じ料金体系をとっていますが、F-Powerは違います。

 大手電力の電気料金には「燃料費調整額」という仕組みがあります。原油など燃料価格の変動は自動的に小売料金に反映されるため、原油価格が高騰しても業績には響きません。多くの新電力も大手電力の燃料費調整額と同じ手法を取り入れ、そのうえで「大手電力の○%引き」という小売価格を提案しています。この場合も、原油価格の変動による業績影響は軽微です。

 一方、F-Powerは原油価格のフォワードカーブを作成し、これを基に電気料金を決めています。(大手電力と同様の燃料費調整額を採用せず)燃料価格の変動リスクを取っているのです。今回は想定していた以上に原油価格が上がってしまったため、プライシングを誤ってしまいました。

 そこで、春先から需要家ごとの小売料金の見直しに取り組んでいます。契約更新のタイミングで、適正な価格に修正していきます。多くの需要家の契約が1年更新なので、少し時間はかかりますが、着実に進んでいます。

 同時に、財務の基盤強化にも動いています。既に増資を実施しました。今後、さらに増資する計画で、めどもついています。