通信自由化と電力自由化、後で振り返れば同じだったと思うはず

――電力システム改革で電気事業はどう変化していくのでしょうか。通信自由化を体感してきた社長の見方をお伺いしたい。

小林社長 一般には電力会社の分割というイメージがあるかもしれませんが、これまでの垂直型ではなく、水平型のモデルになるとみています。

 日本ではいろんな制約があるとは思いますが、今の延長線に出来上がるものと、延長線上にないものが横から入ってくるものの融合体になるのかなと。「横から入ってくるもの」をどう作るかが大切だと思っていますが、例えば、コミュニティー電力というものがあります。当社が関わっている湘南電力(神奈川県平塚市)が一例です。コミュニティー電力を支援していきたいと思いますし、支援機能も備えていきます。

――垂直から水平への移行というと、通信業界でいうところの専用線からインターネットへ切り替わっていった時代が思い出されます。インターネットとともに「ベストエフォート」という考え方が出てきました。

小林社長 ガラッと変わってしまい、従来からの価値が崩れます。今時点の電力サービスは、契約形態や料金も「大手電力の料金からいくら安くなるか」だけです。こんなこと、いつまでもやりたくありません。今はコスト構造も含めて、色々な制約がある中でやっていますが、抜け出したいという思いがあります。

 感覚的にいうと、通信の自由化にはいくつかの変遷がありますが、いまの電力はまだ「東京・大阪間の電話代が安くなります」という段階だなと感じています。まだ「マイライン」すら出てきていない。通信自由化でいうと、90年代にまで到達していない。自由化から5年経っていない頃の感覚です。

 だからこそ、先のことなんか分かるはずがない。当時、電話が安くなるという話をしていた人たちが、今のスマートフォンの世界をイメージできていたと思いますか?米アップルのiPhoneが出てきて、突如、ガラっと世界が変わったというのが実態でしょう。

 振り返ってみたら、やはり通信と電力の自由化は同じだった。そう思うことが、絶対に起きるはずです。その時に何ができるか。色々なトライアルをしておかないと気づけないし、分からないで過ぎてしまう。

 日本の通信事業者はiPhoneがでてきたときに「自分たちもやればできる」と受け止めた。でも、コンセプトが全く違うものでした。「違うものがでてきた」と理解できないと、その後の時代に乗り遅れてしまいます。そういう仕事がしたいですね。面白いですよね。

――この先何が起きるかわからないけれど、必ず何かが起きると。

小林 そう思います。太陽電池パネルの価格だって、明日突然安くなるわけじゃないけれど、かなり下がってきています。お客さんは徐々に自家消費型に変わっていきます。その時に垂直モデルが維持できるかといえば、相当疑問です。お客さんの気持ちになって考えれば、余った電気をどうにかうまく使いたくなりますよね。

――新生エナリスは動き出したばかり。改めて小林社長の経営スタイルを聞かせてください。

小林 エナリスの従業員は、レーダーチャートを作ると丸い人はほとんどいなくて、ギザギザの人が多い。だから、その人の得意なところをうまく引き出して、適材適所にしていかないとパフォーマンスが無駄になってしまう、そういうタイプの会社だと思うんです。

 一番大切にしているのは、経営哲学とかではなくて、コミュニケーションです。「なんとなく分かったかな」と思っても、心配になってもう1回話をしにいってしまうタイプです。社内の風通しがよくないと、どんなに立派な頭脳と立派な組織があっても動かないと。風通しを良くする唯一の方法はコミュニケーションの活性化。新生エナリスに期待していただきたいです。

小林 昌宏(こばやし・まさひろ)
エナリス社長
1963年生まれ。87年茨城大学大学院理工学研究科修了後、東京電力系通信事業者だった東京通信ネットワークに入社。2004年、複数の電力系通信事業者を統合したパワードコム・常務執行役員。2006年にKDDIがパワードコムを吸収合併した後、KDDIプロダクト企画本部長などを歴任。KDDIとエナリスの資本業務提携に伴い、KDDI理事からエナリス社長に就任。