既にサービスの検討を明らかにしているのは中部電力だ。今年6月に高圧部門の法人を対象とした新たな省エネサービスを検討する「梅プロジェクト」を始めると発表した。高圧の既存顧客を対象に、AIやビッグデータ解析を用いた省エネ診断を提供したり、デマンドレスポンス(DR)など、より高度なエネルギーソリューションサービスに繋げるという。
中部電グループ経営戦略本部デジタルイノベーショングループの樋口一成グループ長(部長)は、「高圧は競争で一番食われている領域だ。サービス提供で強化していく必要がある。その1つがAIを活用したサービスだ」と説明する。梅プロジェクトは、約3万件の高圧顧客のうち、中部電が抽出した500件ほどにアプローチし、賛同を得た顧客と共に取り組んでいくという。
中部電は梅プロジェクトの詳細を明らかにしていないが、「顧客ごとのソリューションサービス」(樋口部長)だという。スマートメーターのデータなど収集してクラウド上で見える化するほか、分電盤などにセンサーを取り付けて分析するといった“枯れた技術”を活用して省エネアドバイスなどを展開する。さらに、「AIエンジンを持つベンチャー企業とも協力しながら進めていく」としているが、社名は明らかにしていない。
中部電は家庭向けでは、エネットと同様の自動省エネ診断を今年4月から技術検証している。豪COゼロ社のような、Aルートデータを使うAIエンジンを持っている米ベンチャーのビジェリ(Bidgely)社と分析技術を検証している。さらに、家族構成などの要素を織り込んだ解析を、日本のベンチャー、ABEJA(アベジャ、東京都港区)と開始することも発表した。「AI技術は黎明期。パートナー企業も決め打ちせず、様々なところを比較したい」と樋口部長は言う。
家庭向けでは、東京電力ホールディングスが2013年から米オーパワー(Opower)と提携し、家庭向けネットサービス「でんき家計簿」(自由化後の料金については「くらしTEPCO」)を展開中だ。
「自動省エネ診断は、サービス料金を高めに設定するのが難しい」(新電力幹部)。このため、高圧の法人顧客に比べて電気料金の支払額が少ない家庭向けでは、サービス提供にかかるコストをいかに安価に抑えられるかが勝負になる。新電力は主戦場である高圧を中心にサービス開発を進め、大手電力は家庭向けも含めた展開を模索する構図になりそうだ。
AIやIoT(モノのインターネット化)を始めとする第四次産業革命の足音が大きくなる今、エネルギービジネスでも覇権争いが始まっている。