価格競争からの決別を目指す

 電力全面自由化以降、新電力の主戦場である高圧部門では、激しい価格競争が繰り広げられている。中でも負荷率の低いオフィスや店舗を抱える企業には、新電力が殺到している。「中規模ビルの契約でも、大手電力から新電力まで10~15社から相見積もりを取るケースも珍しくなく、消耗戦の様相だ」(新電力関係者)。

 横並びの価格比較から脱却したい――。エネットが自動省エネ診断サービスの提供開始を急いだ背景には、こうした思いがあった。

 Ennet Eyeはエネットと電気の契約を結べば安価に利用できる。「まずはお付き合いの長い30社ほどの顧客に紹介するところから始めている。3カ月のトライアルで効果を実感してもらいたい。その後の月額料金は1件当たり月額数千円程度と安価に抑える」(五郎丸氏)。

 自動省エネ診断サービス自体で収益を上げることが目的ではなく、「サービスを使いたいからエネットの電気を選ぶ」という構図に持っていくことが狙いだ。「一度使ってもらえれば、安価な利用料で電気料金が安くなることを体感できるはずだ。基本料金はたった1回の失敗で上がってしまう。デマンド監視装置を入れている企業も、Ennet Eyeで何が起きているのか傾向を掴んでもらえたら、失敗を未然に防ぎやすくなる」(五郎丸氏)。

 ある新電力幹部は、「AIエンジンを本気で育てる必要性が新電力にはある」と指摘する。その理由は、新電力のビジネスモデルにある。

 新電力の営業戦略は負荷率の低い企業に対して、大手電力会社よりも基本料金を割り引くことで切り替えを促すやり方が主流だ。つまり、契約後は使用電力量が少ないほうが、電力の調達量が少なくて済むため、収益性が高まる。豊富な電源を持つ大手電力とは異なり、電源を持たない新電力は顧客の省エネを支援すればするほど、利益が増えるという構図にある。

高圧の離脱を止めたい大手電力も触手

 豊富な電源が強みの大手電力は新電力とは異なり、負荷率の高い顧客を中心に、「電気が売れれば売れるほど嬉しい」というモデルになっている。顧客の省エネを進めることが、お題目以上に重要な新電力とは、少し事情が異なる。

 それでも、大手電力は高圧部門のテコ入れに躍起だ。新電力の猛攻によって、最も離脱が多いのが、高圧部門だからだ。AIが流行りのキーワードだという地合いもあって、水面下でAルートデータを使った自動省エネ診断を検討している大手電力は複数、存在する。