まさか日本で「ブラックアウト」が起きるとは――。

 9月6日午前3時8分頃、北海道胆振(いぶり)地方を震源とする地震が発生。北海道全域で全域停電、いわゆるブラックアウトが起きた。一時は、北海道内のほぼ全世帯に当たる295万戸で停電した。

北海道で震度7  地震で停電したままの札幌市中心部=6日午後6時38分(出所:共同通信イメージズ)
北海道で震度7  地震で停電したままの札幌市中心部=6日午後6時38分(出所:共同通信イメージズ)

 ブラックアウトの発生は、9電力体制のスタート以来、初めてのことだ。東日本大震災によって東京電力・福島第1原子力発電所事故が発生し、津波で太平洋沿岸部の発電所が被災した時でさえ、ブラックアウトは起きなかった。

 では、なぜ今回、ブラックアウトが起きたのか。原因を端的に言えば、北海道電力・苫東厚真火力発電所(厚真町)の一極集中だ。

 苫東厚真は石炭火力発電所で、3機合計で定格出力が165万kW。道内最大規模を誇る。北海道電力によると、地震発生時、道内需要310万kWの約半分を苫東厚真が賄っていたという。

 電気は貯めることができない。常に需要(電力の使用量)と供給(発電量)を一致させておく必要がある。今回のように、需要は変わらないのに供給が減ると、過負荷の状態となり、周波数が低下する。

 周波数の低下は、停電発生を意味する。各変電所に設置してある周波数低下防止装置(UFR)が、周波数が一定値以下になったことを検知すると、停電が他の地域に広がらないように系統を遮断する。停電しているところに電気が流れると通電事故が発生したり、設備が損傷してしまうためだ。一方、発電所も周波数の低下を検知すると、自動で停止し、系統から自らを切り離す(解列する)。

 今回、震源地の近くに立地する苫東厚真火力発電所は、かなり揺れたはずだ。地震発生からほどなくして苫東厚真発電所は停止しただろう。その瞬間に、道内の供給は一気に半分に落ち込み、周波数が急激に低下した。

 北海道は人口も少なく、電力需要自体が小さい。北電が発表した9月7日の最大需要予測は380万kW。例えば、東電の最大需要は4700万kW弱。北電エリアの10倍以上だ。仮に東電エリアで苫東厚真と同規模の発電所が停止したとしても、供給の急激な落ち込みにはならない。

 地震発生が深夜で、電力需要が日中よりも小さく、他の発電機の稼働が少なかったことも、苫東厚真の脱落の影響度を大きくした。通常であれば、他の発電機が周波数の低下を検知して、出力を上げるなどの動きをする。だが、今回は苫東厚真の脱落分を回復させる手立てがなかった。

 こうして苫東厚真発電所の周辺部から、周波数の低下は徐々に道内に広がった。いくら系統を遮断しても、需給のバランスは取れず、ドミノ倒しのように停電エリアが広がっていった。同時に、発電所も連鎖的に停止した。こうして、北海道はブラックアウトしたのだ。