温暖化ガス削減や再生可能エネルギーの普及を後押しする非化石価値取引市場が新たに立ち上がった。だが、5月に実施された初めてのオークションはすこぶる低調。新電力など小売電気事業者の不評は明らかだ。それでも、多くの小売電気事業者の経営に大きな影響をもたらす可能性が高い。

 「ひとまずチャレンジしてみた。取引は意外に簡単だった」。大和ハウス工業の新電力事業を担う環境エネルギー事業推進部PPS需給管理グループの小林暢グループ長は、新設された非化石価値取引市場で5月に初めて実施されたオークションをこう振り返る。

 同社は15万2000kWh分の非化石価値を1kWh当たり1.3円で落札した。15万2000kWhは、新人研修などに利用する同社の東京研修センター(千葉県市川市)の2017年度の電力使用量に相当する。決して大きな量ではないが、市場から購入した非化石証書で同施設の1年間の電力使用によるCO2排出をゼロにできた計算になる。

 だが、今回はあくまでも「チャレンジ」。取引の仕方を確認する意味が大きかった。非化石市場は年間に4回の取引が予定されているが、「次回以降、取引に参加するかどうかは未定だ」(小林グループ長)。

 おそらく、大部分の小売電気事業者は大和ハウスと同じスタンスだろう。つまり、様子見なのだ。非化石市場は入札価格の上限と下限がルールで決められており、今回は最高価格が4円/kWh、最低価格が1.3円/kWhだった。大和ハウスは最低価格で落札したわけだが、それでも「高すぎる」(小林グループ長)のが、様子見を決め込む理由だ。

 5月18日に初めて実施された非化石市場のオークションには、2017年度にFIT(固定価格買取制度)電源の1年分の発電量である約500億kWh相当の非化石価値が売り出された。しかし、約定したのはわずか500万kWhと全体の0.01%にすぎない。金額にして670万円だけだ。入札事業者は26社を数えたが、1社当たりの購入額は平均で25万円程度でしかない。FITが生み出した非化石価値の大部分は、経済価値として顕在化することはなかった。

「J-クレジット」なら0.85円

 温室効果ガス削減の観点からエネルギー供給構造高度化法(高度化法)は2030年度に、小売電気事業者に対して再生可能エネルギーや原子力発電といった非化石電源の調達比率を44%以上に高めることを求めている。非化石市場は国内の電源に内在する非化石価値を新電力など小売電気事業者に割り振る仕組みとして立ち上げられた。

東京電力ホールディングスの信濃川水力発電所
東京電力ホールディングスの信濃川水力発電所
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 そのうち、電気代に上乗せする賦課金で建てられたFIT電源の非化石価値の売却益は、「FIT賦課金の軽減に役立てる」趣旨から最低入札価格を導入し、5月に取引された2017年度分については賦課金の半額の1.3円/kWhと決めた。

 ただ、これは売り手側の理屈で決めた価格であって、買い手である小売電気事業者から見たとき、非化石証書に1.3円/kWh以上の価値があるのかは別問題である。

 非化石証書は小売電気事業者にとって、高度化法が求める非化石電源比率の算定のほか、温室効果ガス排出係数(調整後)の算定に使えるゼロエミッション価値、および需要家に再エネ価値を表示したり、アピールしたりする権利として活用できると整理されている。

 同じようにゼロエミ価値として使える証書には、ほかにも「J-クレジット」などがある。

 J-クレジットは、再エネや省エネによる温室効果ガスの排出削減量や森林による吸収量を「クレジット」として国が認証したもので、こちらも売買が可能だ。相対取引のほか入札制度もあり、4月に実施された直近の入札では再エネ由来のクレジットがCO2換算で40万トン分、単価1724円/トン(落札価格平均)で落札された。これは、電力量換算だと8億kWh分が0.85円/kWhで取引されたことに相当する。