今年9月にも創設が予定されていた電力先物市場の行方が怪しくなってきた。

 総理大臣の諮問機関である規制改革推進会議が6月4日、安倍晋三首相に宛てた答申に「電力先物市場の在り方の再検討」を盛り込んだ。答申には「取引関係者の十分な理解を得られないまま、拙速に電力先物を上場させるべきではない」と明記された。
 
 電力先物市場は1カ月や1年先などの電力を取引する。将来の価格をあらかじめ決めることで、市場参加者が現物の価格変動リスクをヘッジするのが先物市場である。金融市場や商品市場には様々な先物市場が存在する。電力自由化が進む海外では、ごく当たり前のように電力先物市場が整備されている。

 国内で電力市場といえば、日本卸電力取引所(JEPX)を指し、実需給の前日に翌日分の電力を売買するスポット市場が電力取引の大半を占める。こちらはいわゆる現物市場だ。

 国内でも電力先物市場の必要性はかねてから指摘されてきた。とりわけ全面自由化以降、その気運は高まり、日本の成長戦略の司令塔として設置された未来投資会議(議長:安倍晋三首相)も電力先物市場の創設を促してきた。

 そうした政府の要請を踏まえ、電力先物市場の開設準備を進めてきたのが、石油や貴金属、穀物などの先物を上場している東京商品取引所(TOCOM)だ。「2018年9月を目途とした電力先物の上場」を公表したのが、昨年11月のことだった。

市場取引の活性化に先物は不可欠

 先物市場の必要性を疑う電力関係者はいない。とりわけ、全面自由化以降、年間の需要ピークである夏場と冬場において、スポット市場の価格高騰に悩まされてきた新電力などは、価格変動リスクのヘッジ手段の必要性を身に染みて感じるようになっている。

 先物といえば金や大豆の商品先物が一般にも古くから知られている。それらはどこか「投機的」なイメージで受け止められてきた側面もある。一個人でも取引でき、「相場で大損」などの話は大抵、商品先物だったりする。そのせいか、「電力会社は電力が先物の対象になるのをいやがっている」といった説が、かつては関係者の間で取り沙汰されてきたりもした。

 だが、昨今はそうしたアレルギーもほとんどないと見ていいだろう。電力は日々の需給に敏感に反応する現物市場(スポット市場)の方が値動きは激しい。これに対して、先物価格は比較的なだらかに推移することが海外の事例などから分かっている。スポット市場の取引量が増加するに伴い、先物市場の必要性は高まっている。

 では、ここにきてなぜ、政府筋から「拙速に上場させるべきではない」などという声が上がってきたのか。