「大手電力と組むのが成長への道」

 ネガワット取引の儲けが少ないとなれば広がりは限られる。

 その点で注目されるのは、欧州でネガワット大手に成長を遂げた仏エナジープールの日本法人、エナジープールジャパンの取り組みだ。同社はネガワット調整金の負担を回避するモデルを目指している。

需要家の生産設備を遠隔操作
需要家の生産設備を遠隔操作
エナジープールジャパンの節電制御室(出所:日経エネルギーNext)
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 それは、自らはネガワットを取引しない支援事業者への道だ。同社自身は送配電事業者向けの調整力公募にも応募していない。需給ひっ迫時の調整力供給を落札した大手電力の小売部門から節電を集めるアグリゲーター業務を受託し、大手小売部門に代わって需要家に節電を要請する。展開するのは、これまで大手小売部門が一部の大口需要家と交わしていた需給調整契約の“衣替え”だ。

 送配電事業者向け調整力として落札された95.8万kwのネガワットのうち、専門のネガワット事業者による落札が21.66万kWで、残りは送配電事業者と同じグループに属する大手電力の小売部門であることは先に触れた通りだ。

 これまで、大手電力は使用電力量が特別に多い工場など一部の大口需要家を対象に需給調整契約を結んできた。電力が不足しそうなときに需要家側が節電に協力する約束をあらかじめ取り交わし、見返りに電気料金を割り引く。契約は全国に500万kWほどあると見られ、今回、その一部が送配電事業者向けネガワットに切り替わったわけだ。

 だが、従来の需給調整契約については、これまで実際に節電が発動されたケースはごく希と言われ、“特別な値引き”の口実が実態と指摘されてきた。それゆえ、需給ひっ迫時における節電の実効性は低いと見られてきた。

 エナジープールジャパンは、そうした需給調整契約を実効性の高い需要抑制(ネガワット)契約に改める。契約内容の見直しはもちろん、IoT技術を導入し、生産ラインなど需要家の電力需要を遠隔で自動制御することで節電指令の確実性を高める。

 同社は東電EPなどからアグリゲーター業務を受託した。こうしたケースではネガワットを取り扱う事業者はあくまで大手電力の小売部門になる。東電EPの顧客が需要を抑制して、創出されるネガワットを送配電事業者の東電PGに販売するのは東電EP自身になる。だから、東電EPの販売電力量は減らない。つまり、ネガワット調整金の問題は発生しない。事業スキームがシンプルで、ネガワット事業を推進するうえで障害が少ないのが特徴だ。

 エネジープールジャパンはネガワットの販売で売り上げを立てるのではなく、東電EPからの業務委託料が収入になる。同社の市村健社長は「多くの需要家を抱える大手電力と組むことが、ネガワットビジネスを大きくする道」と話す。本国のフランスでも大手電力のEDFなどからの業務委託でエナジープールは成長した。

ネガワット調整金は不要
ネガワット調整金は不要
自社の顧客からネガワットを集めるケース(出所:日経エネルギーNext)
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自社の顧客からネガワットを集めるケース(出所:日経エネルギーNext)