仮説1は、料金審査によって規制料金を適切な水準に定める方法には限界があり、自由化によって競争を導入する意義が非常に大きいことを示している。電力システム改革の最大の目的である「電気料金の低廉化」を引き出すのに、自由化が大きな役割を果たしたことの証左といえるだろう。

 仮説2は、大手電力が新たな値引き原資を投下したことを意味する。自由化を迎え、大手電力各社のコスト削減努力は目覚ましいものがある。特に、東京電力グループでは、数千億円単位のコスト削減が実施されている。これは多くの需要家にとって、喜ばしい変化だろう。

 ただ、こんな声も聞こえてくる。「大きな値引きを受けているのは一部の大口顧客だけ。それも、新電力への離脱を検討している企業だけだ。日本の電源(発電所)の大半を保有する独占企業である大手電力のふるまいとして、正しいのだろうか」。さらに、「家庭や小規模な企業など、大きな値引きを受けることができない需要家が、大手電力の値引き原資を負担するのか」と疑問を呈する需要家もいる。

 全面自由化以前は、公正取引委員会が定める「適正な電力取引についての指針」によって、独占企業である大手電力が新電力と競合した場合に著しく低い料金を提示したり、一部の需要家に限って低い料金を提示してはならないと記されていた。ある大手電力幹部は、「全面自由化後の指針の取扱については、不透明な状況が続いており、大手電力の値引き攻勢を止める方策にはならない」とうなだれる。

東電の値引き攻勢と福島への国民負担、そのバランスは

 大手電力の値引き競争といった時に、東電EPには別の指摘もある。それは、「原子力発電所事故に伴う廃炉・賠償費用の国民負担論」である。

 東電グループは、発電事業や送配電事業、小売事業といった「経済事業」での収益を福島に還元することが決まっている。ただ、原発事故の対策コストは当初想定を大きく上回った。そこで経済産業省は2016年秋から「東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)」を開催。膨れ上がる福島への廃炉・賠償費用を東電が負担するための経営のあり方について、専門家が議論を重ねてきた。

 そして、並行して開催された「電力システム改革貫徹のための政策小委員会(貫徹委員会)」で、不足する賠償費用を国民が広く負担する方針を固めたばかりだ(「賠償費用の過去分」を国民負担として託送料金から回収することになった。)

 原発事故による賠償を国民も負担する。福島の支援に反対する国民は少ないはず。ただし、それは当事者である東電が自らの責任を全うしているのが大前提だ。

 東電グループがコスト削減努力をし、経済事業で積極的なビジネス展開をして、収益をアップさせて福島に還元する。それでも、不足が出るなら国民が負担する、というストーリーである。

 このストーリーと東電EPによる大口需要家への大幅値下げに整合性があるのかを、疑問視する声は大きい。

 新電力大手イーレックスの本名均社長は、2016年12月に経済産業省で開催された貫徹委員会で、東電グループの経営の透明化を求めた。「福島への賠償費用を国民負担とするのだから、東電グループの事業会社ごとの事業計画や収支を電力・ガス取引監視等委員会がきちんと見ていくべきではないか」。というのが、その内容だ。

 そもそも大手電力会社は歴史的に、発電・送配電・小売り部門が、各部門の実力値として、どれだけ利益を出しているのか明らかにしてこなかった。そこには「三分法」というカルチャーがある。