新電力は入札開始早々“傍観者”に

 1月17日午前10時30分。日本郵便・南関東支社エリア内の郵便局などで使用する電気の入札が始まった。1件の規模が小さい郵便局は低圧に属し、電気料金はこれまで規制料金が適用されてきた。この入札で自由料金に切り替えとなる。入札には、日本郵便が用意した入札システムが用いられた。

 入札対象は、「電灯」で680万6234kWh、「動力」で158万8773kWh。郵便局も束になればこれだけの規模になる。家庭の平均電力使用量が月間300kWh程度であることを考えると、その大きさが分かる。供給期間は2017年3月からの1年間だ。

 入札はリバースオークション方式で行われた。いわゆる競り下げ式の競争入札で、1社当たり4回の入札が認められた。東電EPや関電などの大手電力会社のほか、新電力も複数社が入札に参加した。合計で10社程度だったとみられる。

 冒頭の新電力幹部は、「必死で社内調整を重ね、これまで郵便局が支払ってきた規制料金の3%引きの札を用意していた」。だが、入札は想像を遥かに超える値引き合戦となった。開始から5分ほどで、3%値引きのラインを突破。この新電力には「札を入れるタイミングすらなかった」という。

 傍観者となったのは、1社だけではない。複数の新電力が、「入札に参加することすらかなわず、入札の行方をシステムの画面で、ただ眺めていた」と明かす。新電力が早々に脱落すると、その後は「東電EPと関電の一騎打ちとなった。南関東支社エリアでは東電EPが、地場を守るため踏みとどまった」(関係者)。

 日本郵便が実施した入札は、南関東支社だけではない。1月24日には近畿支社エリア内の郵便局が対象となった。こちらは南関東支社よりも調達規模が大きく、電灯で3533万9998kWh、動力で748万5474kWhに上った。

 南関東支社とは異なり、入札回数の上限がなかったため、さらなる値下げを合戦となった。ただ、近畿支社は関電のお膝元。「東電グループと関電のデッドヒートの末、関電が牙城を守った」(関係者)。

 最終的な落札金額は驚くべき金額となった。「これまでの電気料金は総額約13億5000万円。それが、わずか30分ほどの入札で約9億5000万円にまで下がった。3割もの値引きだ」(関係者)。

 自由化を経て、低圧部門でも激しい競争が起きている。大手電力各社が、初めて本格的な営業攻勢に転じている。まさに自由化による変化といえるだろう。しかし、安値競争が起きれば良いという単純な話なのだろうか。

「料金審査の難しさ」と「自由化の意義」

 自由化以前の低圧部門は、すべての需要家がエリアごとに一律に決められた規制料金を支払ってきた。規制料金は、大手電力会社が電力供給にまつわるコストを総括原価方式によって積み上げ、そこにあらかじめ決められた事業報酬率を加えて算定。監督官庁である資源エネルギー庁の料金審査を経て認可される。

 これまで料金審査は度々、紛糾してきた。特に、東電が福島第1原子力発電所事故を起こしてからは、料金に織り込んだコストが適正かどうか、専門家を交えて細かくチェックしてきた。また、原発の停止によるコスト増を吸収するため、電気料金の値上げを認めるかどうかを審査する際にも、喧々諤々のやり取りが大手電力とエネ庁の間で交わされてきた。料金審査の難しさは認識しつつも、規制料金は一定、適正だとされてきた。

 ところが、2016年4月に自由化を迎えるや否や、大手電力各社は割引メニューを発表。大口顧客に対しては、大幅な値引きを提示するようになった。今回の日本郵便の入札に至っては、一部の大口顧客向けの割引とはいえ、3割も電気料金が安くなった。「これまでの料金水準から1割も値引いたら事業は立ち行かない」というのが新電力の共通認識であるにもかかわらずだ。

 ここで2つの仮説が浮かぶ。仮説1は、料金審査で適切な料金を算定するのは難しく、大手電力には値引き余力があった。そして仮説2は、料金審査はきちんと行われていたが、それでも競争が値引きを引き出したというものだ。