ニチガス、東ガスエリア以外にも進出

 新規参入のLPガス事業者は、かねて東電EPと都市ガス事業での提携を表明していた日本ガス(ニチガス)のほか、ニチガスとLPガスで提携関係にあるレモンガス(神奈川県平塚市)、河原実業(東京都足立区)の2社が、いずれも東電EPから卸供給を受けたガスを東ガスエリアで販売する。もう1社のLPガス事業者はサイサン(さいたま市)で、こちらは東ガスから卸供給を受けて、ニチガスの都市ガス子会社のエリアに攻め込む。

 一方、サイサンの攻勢を受けるニチガス系都市ガス会社の4社は、越境販売に乗り出す。ニチガスはグループの東彩ガス(埼玉県春日部市)、東日本ガス(千葉県我孫子市)、新日本ガス(埼玉県北本市)、北日本ガス(栃木県小山氏)と協同して東ガスエリア以外も攻略する。茨城県水戸市などを供給拠点とする東部ガス(東京都中央区)、埼玉県所沢市などに供給している武州ガス(埼玉県川越市)など、東ガスから卸供給を受けている16社以上のエリアに進出することを明らかにした。関電、中部電、九電がいずれも小口参入は、大ガス、東邦ガス、西部ガスのエリアに絞っているのとは対照的だ。関東は中小都市ガスを巻き込んだ東電EP陣営と東ガス陣営の総力戦の様相を見せ始めている。

「ワンタッチ供給」で未経験の新規参入を支援

 東電EP陣営では、都市ガス未経験のLP事業者が参入しているのも大きな特徴だろう。ニチガスは自社や子会社が都市ガス事業を手掛けているが、レモンガスと河原実業に都市ガスの経験はない。今回、未経験の異業種が参入できたのは、全面自由化に当たってガス小売事業者に認められることになった「ワンタッチ供給」と呼ばれるガスの供給方法によるところが大きい。

 ワンタッチ供給とは、小売事業者が家庭など需要場所で卸事業者から卸供給を受け、その場で小売りをしたと見なす取引手法で、実態として小売事業者はガスに触らない。ガス小売事業者は安全確保の観点から導管圧力を一定範囲内に収めるため、事業者単位で1時間あたりのガスの注入量(供給量)と払い出し量(需要量)をバランスさせる「同時同量」が義務づけられている。

 同時同量はガス事業特有の技術とノウハウを要する作業だが、ワンタッチ供給を活用すれることで、事実上、卸事業者に任せることができる。レモンガスや河原実業にとっては、東電EPやニチガスから卸供給を受けたガスをワンタッチ供給で小売りすることで、自社のLPガス営業網などを生かした都市ガス販売に専念できるのが大きな利点だ。

 東電EP陣営はこうした手法も活用して、異業種からの新規参入を支援して陣営の営業力強化を図る構想を打ち出している(「東電vs東ガスの第2ラウンド LPガスが代理戦争」参照)。ワンタッチ供給や保安業務の支援が充実すれば、ガスとは全く縁のない事業者の参入も可能だ。
 
 ガスの供給元をたどれば東電EPに行きつくが、参入する小売事業者が増えれば料金メニューやサービスはそれぞれが独自の工夫ができるため、消費者から見れば選択肢が広がる可能性がある。ニチガスはガス機器の割引との組み合わせのほか、宅配水やインターネット回線とのセット販売を展開する。目新しいところでは、料金をビットコインで支払う顧客は月々100円割り引くメニューも提供している。7月から参入する東電EPは「電気とのセット販売など、ニチガスとは異なる切り口の商品を出していく」(東電EP幹部)としている。

東ガスの営業力の強さは東電EPもニチガスも認めるところ。スロースタートになる関東だが、勢力図の行方は消費者をどれだけ盛り上げられるかにかかっている。

料金競争と多様なメニューが盛り上がりの鍵
料金競争と多様なメニューが盛り上がりの鍵
新料金の発表したニチガスの和田眞治社長(左)と向井正弘常務取締役

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