「高度化法は大変なことになると思った」。大手新電力で電力取引を統括する幹部は、4年前、一律44%の非化石電源を小売電気事業者に課すことが決まったときのことをこう振り返る。

 それが今、2020年に取引が始まるとされる「非FIT非化石証書」を巡る議論の場で現実のものになろうとしている。「制度設計を誤れば新規参入者は壊滅する」(有識者会合の委員)ことが次第に明らかになってきたためだ。ここでいう非FIT非化石とは、FIT(固定価格買取制度)を利用していない大型水力や原子力などの非化石電源のことをいう。

 エネルギー供給構造高度化法は電気やガス、石油事業者などに対して、再生可能エネルギーや原子力などの非化石電源の利用や、化石エネルギー原料の有効な利用を促すことを目的に2009年に制定された。電力の部分自由化が進行中だった当時、一般電気事業者(大手電力)は2020年に非化石電源比率を50%以上、特定規模電気事業者(新電力)は2%以上にするとの目標が課された。このときは、大型水力や原子力を持つ者と持たざる者の差が考慮されていた。

大型水力など化石燃料を使わない電源の「非化石価値」が売れるようになる(画像は黒部ダム)
大型水力など化石燃料を使わない電源の「非化石価値」が売れるようになる(画像は黒部ダム)
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 この高度化法が根本的に見直されたのが2016年のことだ。2015年7月に決まった長期エネルギー需給見通しで、日本全体の2030年のエネルギーミックスを再エネ22~24%、原子力22~20%などと目指すことが決まった。これを受けて、高度化法が目指す非化石電源比率の目標が「2030年に原則44%以上」に改訂された。44%はエネルギーミックスにおける再エネと原子力の比率を足し合わせた数字である。

 そしてこのとき、目標数値に大手電力と新電力の区別がなくなり、すべての小売電気事業者に一律に課すことになった。併せて「非化石価値の取引を可能にすることで小売電気事業者の目標達成を後押しする制度を検討する」(経済産業省)ことが決まった。新たに創設する非化石市場が大手電力と新電力の差を穴埋めする道具と位置づけられたわけである。

大手電力は棚ぼたで資産が増える

 全面自由化後の制度や市場を整備する議論が続いている。新電力に負担を求める新制度としては、供給力の維持や投資に必要な資金を小売電気事業者から集める容量市場などの行方に注目が集まっている。それに比べて「非FIT非化石証書」は電気事業者の間でも地味な制度に見られがちだ。

 だが、容量市場の場合は「徴収した金額分は理論的には卸電力市場の価格が安くなる」(経産省)とされているのに対して、大型水力や原子力などの非FIT非化石電源はそもそも大手電力に偏在している。そして、取引制度をつくった途端、それまで埋もれていた非化石価値が現実の経済価値として顕在化する。つまり、大手電力は「棚ぼた利益を得ることになる」(新電力幹部)。

 そもそも、大型水力や原子力に内在するとされた非化石価値は誰のものなのか。ある新電力幹部は「大部分の発電所が総括原価方式で建設されたことを踏まえれば、エッセンシャルファシリティー(送配電線のようにサービス提供に不可欠な公共財)に近いものと考えられるのではないか」と主張する。