パワーデバイスの高速化が進んでいる。現在主流のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は性能の向上が進み、すでに第8世代品が登場した。次世代のパワーデバイスと目されるSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)の実用化も進んできた。例えば、SiCでは、以前から製品化されているダイオードだけでなく、トランジスタもようやく登場した。GaNについては懸案だったノーマリーオフ型のメドも付いてきた。

 これらの次世代パワーデバイスは、同じ耐圧を確保した場合、従来のMOSFETに比べてスイッチング損失と導通損失がともに小さく、インバーターやコンバーターのエネルギー変換効率が向上する。同時に、スイッチング周波数の向上により、小型化というメリットもある。さらに、高温でも動作可能なため、放熱機構の簡略化によって、機器の小型化や軽量化が図れる。

 一般に、SiCでインバーター回路を組むと、高効率なIGBTのインバーターに比べて損失をさらに1/2程度に抑えられると言われている。自動車(ハイブリッド車や電気自動車)、鉄道、FA設備、再生可能エネルギー(パワーコンディショナー)、家電、サーバーやデータセンター電源、送配電システムなど、さまざまな分野でエネルギー効率を高められるとして、大きな期待が寄せられている(図1)。

図1 パワーエレクトロニクスの市場動向
図1 パワーエレクトロニクスの市場動向
(図:キーサイト・テクノロジー)
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パワーデバイスの素子特性の把握が不可欠

 こうした高性能なパワーデバイスの活用にあたっては、注意すべき点が2つある。(1)動作環境での素子パラメーターの入手、および(2)模造品対策である。このうち(1)は、部品の選定と電源回路の詳細設計に必要な素子パラメーターをいかに入手するか、ということだ。標準的なテスト条件における特性はデバイスベンダーからデータシートとして提供される。しかし、パワーデバイスの特性は温度条件や入出力条件(例えば出力電流の大きさ)によって大きく変化するため(いわゆるディレーティング)、標準条件下におけるパラメーターだけでデバイスを比較し選定するのは適切ではない。例えば、変換効率を机上で求めるにはゲート電荷やデバイス容量などのパラメーターが必要だが、実際の装置や機器に組み込んだ条件での値でなければ、求めた変換効率の精度は下がってしまう(図2)。

図2 課題(1)実使用条件での特性データの不足あるいは欠如
図2 課題(1)実使用条件での特性データの不足あるいは欠如
(図:キーサイト・テクノロジー)
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 また、電源回路の詳細設計を進める際にも素子の特性データが必要である。動作がもともと高速なSiCやGaNだけではなく、最新世代のIGBTでもスイッチング動作が高速化している。このため、例えば各端子の容量やパッケージの寄生インダクタンスを温度ごとに正しく把握しておかないと、基板を含めたスイッチング動作のトランジェント解析やサージ対策ができなくなってしまう。なによりパワーデバイスの性能を引き出すためにも、素子特性パラメーターは不可欠といえる。

 所望の条件での素子特性を得るにはパワーデバイスのベンダーに要求するのがまずは妥当な方法だが、ベンダーもあらゆる条件でのデータを持っているとは限らない。新たな測定が必要かもしれない。そうなればそのコストは部品コストに上乗せされる可能性が出てくるだろう。

 もう1つの注意点が模倣品(偽造品)である(図3)。SiCやGaNのパワーデバイスではまだ報告されていないものの、現行のIGBTモジュールなどでは模倣品が確認されており、一説にはワールドワイドで80兆円相当の被害が出ているという。正規ルートを介さずに海外マーケット等から調達した場合にそうした被害に遭う可能性が高くなる。気づかずに最終製品に組み込んでしまうと、不具合や信頼性の低下を招き、最悪の場合はリコールなどの対策が必要になってしまう。

図3 課題(2)パッケージ外観だけでは模倣品や欠陥品の区別が不可能 
図3 課題(2)パッケージ外観だけでは模倣品や欠陥品の区別が不可能 
(図:キーサイト・テクノロジー)
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 模倣品は外見が真正品とそっくりにできているため、なかなか見分けが付かない。また、オン抵抗のような基本的な特性だけでも判別が難しいとされ、より詳細な特性を測定して判別する必要があるとされている。

 上述した2つの課題を解決するには、パワーデバイスの評価設備を自前で持つことが最善の策となる。いったん導入すれば、設計や受け入れ検査など製品ライフサイクルのさまざまな場面で活用できる。 とはいえ、パワーデバイスの特性評価は決して簡単ではなく、さまざまなノウハウや経験を必要とする。測定回路のセッティングや測定器の使いこなしも求められる。