“ワンデイ全ゲノム解析”へ

 2015年、「成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)」と呼ぶ疾患の発症メカニズムがゲノム解析で明らかになった。宮野氏が冒頭で紹介したのは、そんなエピソードだ。

 ATLは1977年に日本で初めて報告された疾患。ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染が引き起こす疾患で、発症すると予後は非常に不良だ。日本には約120万人のキャリア(ウイルス感染者)がおり、そのうち約5%が生涯のうちにATLを発症するとされる。その発症メカニズムがゲノム解析で明らかになった。

 こうした形でゲノム情報を人々の健康に生かせる社会を実現する上では、どのような技術がカギを握るのか。宮野氏が挙げたのは「ワンデイ全ゲノム解析」と「デイリーメタゲノム解析」の2つ。全ゲノム情報を1日で解析できたり、腸内微生物の状況を日々解析できたりする技術だ。

 そこに向けた課題は大きく3つある。第1に、ゲノム解析のコストがまだ高い。第2に、腸内微生物の解析手法が確立していない。第3に、全ゲノム情報の解釈法が欠如している。

10年後には1時間以内

 これらの克服に向けて、東京大学 医科学研究所は企業との共同研究に力を入れている。第1の課題については、大阪大学発ベンチャーのクオンタムバイオシステムズと、半導体技術を駆使したシーケンサーの開発に取り組んでいる(関連記事3)。目指すは「1時間以内、1万円以内」(宮野氏)での全ゲノム解析。こうした速さとコストでのゲノム解析は「10年後には当たり前になっているだろう」(同氏)。

 第2の課題では、医学生物学研究所(名古屋市)と組み、腸内微生物の全ゲノムシーケンスに取り組んでいる。体内にすむ「共生者を知る取り組み」(同氏)である。そして第3の課題、全ゲノム情報の解釈に活用するのがIBM社のWatsonだ。