「CES 2017」(米国ラスベガス、一般公開日:2017年1月5~8日)には、日米欧の自動車メーカーが勢ぞろいし、エレクトロニクス、ITベンダーとの協業を多く発表した。中でも、米NVIDIA社の勢力拡大が著しく、ドイツのDaimler社やAudi社、ZF社など多くのブレーヤーとの提携を発表した。

 また、これまでクルマと関わりの薄かった米Amazon.com社も音声認識の技術でクルマ分野に進出し、米Ford Motor社やドイツVolkswagen社との協業に踏み出した。半面、高度運転支援システム(ADAS)でカメラ系システムを牛耳ってきたイスラエルMobileye社はやや劣勢。巻き返しをかけて米Intel社と提携する。日本メーカーではトヨタ自動車、ホンダがAI(人工知能)について発表した。

講演で対談するNVIDIA社 Huang氏とAudi of America PresidentのScott氏
講演で対談するNVIDIA社 Huang氏とAudi of America PresidentのScott氏
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 自動ブレーキの中核技術である画像認識。新興企業ながら、同技術で世界を席巻したのがMobileye社だ。安い単眼カメラで、高い認識精度を実現する。2007年にドイツBMW社や米GM社、スウェーデンVolvo社が採用したのを皮切りに、世界の名だたる自動車メーカーが同社製の画像認識用SoC「EyeQシリーズ」を選んできた。現在の採用先は上記3社に加えて、米Ford Motor社や日産自動車、中国・上海汽車などがある。

 まさに破竹の勢い。既存の大手部品メーカーは慌てふためき、デンソーで画像認識を手掛ける技術者は、「打倒Mobileyeで開発している」と小声で打ち明けるほどだ。自動車メーカーは一般に、長年取り引きしてきた部品メーカーとの付き合いを重視しがちである。Mobileye社はそんな慣例をはねつけて、世界を代表する自動車メーカーから新しい取り引きを勝ち取ってきた。

 快進撃を続けるMobileye社。しかし、独壇場と言える地位に陰りが見えてきた。CESでは、画像認識を手掛ける半導体メーカーのNVIDIA社が、Mobileye社の牙城を切り崩しにかかっている構図が明らかになった。

 代表例が、ドイツAudi社の選択。同社は2017年第2四半期に、Mobileye社製SoCを搭載した車両を投入する計画がある。その一方で今後の自動運転車の開発でNVIDIA社と提携すると「CES 2017」で1月4日に発表した(関連記事)。当面はMobileye社に頼るものの、将来はNVIDIA社に切り替えたい思惑が透けて見える。

 わずか2日後の同年1月6日。NVIDIA社は同じくCES 2017の場で、Daimler社とも提携すると発表した(関連記事)。2017年内に、NVIDIA社の深層学習技術を使った車両を投入する可能性が高い。NVIDIA社創業者兼CEO(最高経営責任者)のJen-Hsun Huang氏は、Daimler社に対して「AI車の共通のビジョンを共有している。AIは自動車の未来に革命を起こす」と語った。

 大手部品メーカーも流れに乗る。ドイツBosch社と同ZF社が、NVIDIA社と提携すると発表した。ZF社は、ディープラーニング(深層学習)を使った認識機能を備える自動車の電子制御ユニット(ECU)「ProAI」を開発した。米NVIDIA社製の車載コンピューター「Drive PX2」を使って実現する。高速道路における自動運転機能に使うことを想定。2018年以降に量産したい考えだ(関連記事)。

 ZF社は自動車で使えるように、-30~+80℃の温度環境に対応することに加えて、耐震性などを高めている。ステレオカメラや赤外線レーザースキャナー(LIDAR)、ミリ波レーダー、超音波センサーのデータを基に深層学習を使って認識精度を高める。加えて、ハードディスクに記録した高精度地図データとセンサー情報を照合し、自車位置の推定精度を高めることにも活用する。さらに、車車間通信や路車間通信の機能を備える。

ZF社CEOのStefan Sommer氏
ZF社CEOのStefan Sommer氏
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 これまでMobileye社を採用してきたメーカーが、続々とNVIDIA社に移り始めた。背景にあるのが、ディープラーニングだ。特に画像認識の精度を一気に高められる革新的な技術である。「自動運転に欠かせない」(本田技術研究所社長の松本宜之氏)との見方は、自動車業界で今や主流になった。その深層学習にいち早く取り組んできたのが、NVIDIA社である。同技術に対応した車載用コンピューター「Drive PX2」を開発済みだ。注目度はうなぎ登りである。