自ら判断のルールを作り出すAI
この次世代の医療提供体制を構築する上で肝になるのがAIだ。ここでAIとはどのような仕組みかを改めて振り返ってみよう。
そもそもコンピューターは、画像や文字列などの情報を与えられると、それを分解し、単純な信号の集まりとして認識する。AIはその信号の並びから、画像や文字を特徴付けるポイントを見いだし、その特徴が画像や文字を認識する上でどれだけ重要かを判断する。そしてその重要性に基づき、画像や文字を認識するルールを作る。
つまり、疾患特有の所見が映った画像や特徴的な症状を表すフレーズと、それに正対する診断結果を見本データとして与えれば、それを基に新たに与えられたデータを判断するルールを自ら作り出すわけだ。
以前は、与えられた情報から特徴を見いださせる際、どの特徴に注目すべきかを人間がAIに指示する必要があった。しかし、コンピューターの計算能力が飛躍的に高まり、複雑なプログラムが動く環境が整った。その結果、AならばBという単純な関係から、AでBならばCといった多層化した判断基準をAI自らが作り出す「深層学習(ディープラーニング)」という技術が生まれ、人間が指示しなくてもAI自ら特徴を見いだし、その特徴がどれだけ重要かを何度も計算を繰り返して調整できるようになった。それにより、AIが与えられたデータを自動で認識し判断する能力が急速に高まったのだ(図2)。
AIの開発に長年携わってきた慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授の榊原康文氏によると、AIが学習し、判断基準を持つ仕組みは人の学習と同じだという。「医師は患者の問診結果から重要なフレーズを抽出し、それがどの程度大切かを判断した結果として鑑別疾患を挙げている。どの医師もこの思考プロセスを繰り返し経験し、診断の精度を上げてきたはず。それと同じようにAIは、複雑な計算を重ね、係数の調整のような微調整を繰り返し行っている」と説明する。
このAIの技術をさらに進歩させ、実際の診療現場で活用するために、様々な企業や研究所が開発を始めている。未来の扉を開く7つの取り組みを紹介していこう。