「2016 International CES」では、ソニーのブースデザインが上質で、評判だった。CESというと、これでもかとばかりの派手な色使いとコーナー作り、大きな音による攻撃的なナレーションが目立つ。見るだけ、行くだけで疲れるブースがほとんどだ。その中で、ソニーのブースは心地の良さとメッセージ性がほどよくバランスしていた。個々のコーナーの背が低いので、全体を一目で見渡せるのも良い。他のブースでは、コーナー同士が喧嘩している例も多い。

 そう見ていたら、社長の平井一夫氏も同じ意見だった。同氏はインタビューで、こう言っていた。「ブースは、やっと今回のCESでソニーらしさを出せたと思います。昔は照明が暗く、黒っぽかったです。それを明るくしろと言ったら、今度は明るくなりすぎた。もっとぬくもりを感じる雰囲気が欲しいと思っていましたが、今回はちょうど良い感じですね。茶色系で、木目調はとてもオーガニックで良い。常々言っていますが、このようなショーでは主役は商品なのです。今回は、商品が際立つステージングでした」。

ブースデザイナーが語った、こだわり

 会場で旧知のブースデザイナーに会ったので、今回のこだわりを聞いてみた。

 「発信力の大きなCESやベルリンで開催されるIFAに関しては、一貫性を持たせながらも進化感を演出できるように、イベント全般にわたってインハウスのデザインチームが担当しています。それも全方位にわたり直接関わっているんです。ブースのレイアウトに始まり、会場内の建築物、すべての什器のデザインと、その上で使われる展示治具、環境やライフスタイルを演出するアクセサリーなどの選定から実際の展示まで行っています。スクリーンに流れる映像コンテンツや掲出されるバナー、ポスター、ウェブ上でのイベント告知やプレスイベントへの招待状など、イベント全体をくくるキーグラフィックのデザインや、ユニフォームやランヤードなど細かい部分から全体に至るまでデザインをしています」。

 特に筆者が感心したのが、2012年のIFAのブースに導入してから継続的に採用している360度スクリーン。ここに、民生機器からゲーム、エンターテインメント、映画に至る幅広いソニー製品やコンセプト、製品デザインが軽快な音楽に乗って投映される。ソニーにはどんなものがあるのか、見ているだけで分かる。

 「ソニーの持っている幅広い領域を一元的に投映することで、ブランドの一体感を生んできました。今回は2015年のIFAのブースで採用したスクリーンを継承しています。部分的に床面レベルまで到達したバックドロップのようなスクリーンは、商品展示の環境としても考慮しています。もちろん、スクリーン上に投影するコンテンツが重要になりますので、その基になる商品カットのアングルや背景の色の組み合わせ、映像の動く速さや環境音に至るまでもデザインしています。毎回のイベントで新しい試みをしながら、集積し続けていることで、全体のクオリティーも引き上げています」。

 引き続き「今回のCESのブースの進歩点は何か」と尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。

 「スクリーンの外周にも展示スペースを設けたことです。スクリーンの内側では主に商品の機能に関するプレゼンテーションを行い、外周ではその商品の良さをより具体的に深く、そして感性的に伝えるため、分かりやすいデモや体験コーナーを設置しました。この施策によって、スクリーンの内側からはスッキリと見通しも良くなっていますし、スクリーンをくぐってさらに進むと、奥が深く、隠れていた具体的な展示や面白さが次々に目に入ってくる構成にしました」。

 確かに、筆者は「PlayStation VR」で遊んだが、その展示はスクリーンの外にあった。

 また、今回のブースは、木目がヒューマンな味わいを表現している。これについても、ブースデザイナーに聞いた。

 「これまで“Product=Hero”として、商品の周囲を白くクリーンな環境に整えてきました。しかし、2014年のIFAのブースから、よりヒューマニティーのある会場空間を作るために、床や壁、さらに什器にも木目を施してきました。今回はリアルウッドなども採用して木質の家具やアクセサリーなどを多用しています。商品はもちろん主役ですが、ユーザーの日常やライフスタイルに重ね合わせて受け取っていただけるように、什器も単なる箱や陳列棚ではなく、ある生活のシーンを想起するような家具を採用しています。その一例がハイレゾオーディオのヘッドホンを掛けている什器です」

 ソニーの関係者が一体になってブースデザインを推進することで、熱気や一体感が醸成されるという。確かに筆者も文化祭の展示には燃えた記憶がある(古い!)。その超大型の本格版がCESブースだ。「CESのような大イベントでは、運営チームやデザインチームだけでなく、社内の様々な部署、海外組織などから多くの担当者が関係します。当然、それぞれの部署の思惑や意図を背負って参加しますので、1つにまとめていくことは大変な苦労なんです。でも一つひとつを丁寧に聞き、やり取りを重ねることで、お互いに信頼関係も生まれます。ソニー社内が一体になって、毎回、手作りしているんですよ」。