どうすべきなのか…

 では、正確な情報が記録され、その情報を利用できる電子カルテとするためにどうすべきなのか。大江氏は次のように提言する。「患者に付けられた病名、治療対象の病名くらいはきちんと入力でき、1カ所で時系列に参照できるようにするべき。少なくとも診療対象病名を、得られている粒度の情報とともに簡単に利用できるようにしたい。また、半定型的な記載から正確な情報が自動処理できるように、入力側も歩み寄れる自然な定型入力インタフェースを工夫してもいいのではないか」(同氏)。

 さらに次の段階として、診療行為における医療者の医学的意図や判断根拠をどうやって記録するかの研究開発が必要だと指摘する。そのためには2つのポイントがあるという。

 第1は、オーダーする際に少ない労力で、対象病名あるいは検査結果の異常などを選択する仕組みにすること。「そうしたことができれば、判断プロセスが明らかな情報蓄積が可能になる」(大江氏)。

 第2は、カルテを書く際に患者の症状を入力すると用語データベースからカテゴリー、階層、それにひも付いている病名を探索・入力できるようにすること。つまり、どんな病名を医師が考えているか、可能性がある候補を提示し、選択で病名入力できる仕組みを考えるべきだとする。「症状、病名、医師の診断を効率よく、思考プロセスを捕捉する形で入力できるようになるだろう」(大江氏)。

 次世代の電子カルテシステムには、IoT(Internet of Things)などセンサーネットワークを活用したデータの自動記録の試みも求められるようになる。ただし、「現状の機械学習やディープラーニングには、“教師付きのデータ”が大量に必要。そのためには、できる限り構造化され、標準化された医療データが必要になる」(大江氏)。そうした臨床経過データ、ゲノムなどさまざまな情報から総合的に診断支援できるシステムを開発することも今後の課題だと強調した。

センサーネットワークのデータなどを自動記録できる電子カルテへ
センサーネットワークのデータなどを自動記録できる電子カルテへ
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 データこそが肝であり、医療者側もその意識を持つべきとした上で、大江氏は次のような意欲を示した。「今の電子カルテに欠けているのは、意味ある情報をあぶり出し、活用できる医療情報システム。その実現が次の挑戦であり、それが医学医療そのものを変えていく」(同氏)。