誰も今後の姿が見えていない

 製薬企業がこうした取り組みを推進する背景はどこにあるのか。モデレーターを務めた日経バイオテク編集長の橋本宗明は、まず、製薬業界を取り巻く現状を次のように指摘した。「高齢化の進展、医療費の高騰により、日本の医療保険制度は存続の危機ともいえる。地域包括ケアシステムの整備によって、医療供給体制の再構築を進めようとしている。製薬企業には薬価の引き下げなど特に強い圧力がかかっているのが実態。欧米においても医療費抑制圧力は強く、製薬企業のビジネスモデルはサステナブルではないという声も出ている」。

 こうした危機感が、製薬企業を突き動かしている一つの理由といえる。その上で、デジタルヘルスの積極活用を標榜するのは、医療供給体制の再構築が進むことは間違いないものの、その姿が具体的にどのようなものかが現時点では漠然としているためだ。「誰も、そして我々自身も、今後の姿が見えていない。だからこそ、オープンイノベーションの形でパートナーを探し、カジュアルにディスカッションしていきたい」(MSDの樋渡氏)。

 MSDが国内で立ち上げたヘルステックプログラムの背景として、樋渡氏は米国と日本の違いについても指摘。「米国ではヘルスケア関連のスタートアップに4500億円ほどの投資があるが、日本は40億~50億円程度。日本にはヘルスケアのスタートアップを育成する土壌がまだない」(同氏)。その土壌を作っていくのが同プログラムの役割であるとした。

 一方、バイエル薬品の菊池氏は、同社が進めるGrants4Apps Tokyoの役割について「製薬企業がデジタルヘルスに取り組んでいること自体が、日本ではまだ知られていない。まずは、その認知度を上げる狙いがある。そして、さまざまなプレーヤーの参入を促し、研究開発を支援したい」と語った。