日本のヘルスケアベンチャーに未来はあるか?

MSD「ヘルステックプログラム」担当者が対談

2016/10/20 02:20
大下 淳一=日経デジタルヘルス
登壇した福島氏
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 ヘルスケアベンチャーの成功例がいくつも生まれている米国と、立ち後れる日本。その差はどこにあるのか――。「デジタルヘルスDAYS 2016」(2016年10月19~21日、主催:日経BP社、協力:日経デジタルヘルス)開催初日のオープンシアターでは、そんなテーマを論じる対談が行われた。セッションテーマは「スタートアップ先進国アメリカの事例から考える、日本のヘルスケアスタートアップの未来」だ。

 登壇したのは、製薬大手のMSDがグロービス・キャピタル・パートナーズとともに2016年2月に始動させた、「ヘルステックプログラム」を主導する2人(関連記事)。ベンチャーキャピタルと製薬企業という異なる立場からヘルスケアベンチャー支援に取り組む、グロービス・キャピタル・パートナーズ プリンシパルの福島智史氏と、MSD ビジネス イノベーション グループのLahoti Gopal氏である。

 まずは福島氏が、ICTを用いたヘルスケア(ヘルステック)分野のベンチャー企業の、米国における動向を紹介した。それによれば、米国のヘルスケアベンチャー関連の投資額は年間5000億円規模。日本はその「1/200の水準で、まずはここが課題だ」(福島氏)。ベンチャーキャピタルなどからの出資を受けたヘルスケアベンチャーは、米国では既に800社を超えるのに対し、日本では「50~60社だろう」(同氏)。ここには、医療保険制度や医療費のGDP比、肥満率などにおける日米の違いといった、環境要因が大きく影響しているという。

 ウエアラブル端末大手のFitbit社や、病院のオンライン検索・予約アプリを手掛けるZocDoc社、遠隔診療サービスを手掛けるDoctor on Demand社…。福島氏は成功モデルとも言える米国ヘルスケアベンチャーの事例を挙げつつ、医療をめぐる制度や市場に大きな違いのある「日本でこれらをそのまま真似るのは難しい」と指摘。日本企業にとっても手本となる事例として、事業領域の異なる複数のプレーヤーが連携し、ヘルスケアサービスを作りあげた事例を紹介した。

大企業は“ベンチャー優位”を認識せよ

 その1つが、Apple社とEpic Systems社、Ochsner Health Systemによる、EMR(電子カルテ)とPHRを統合した患者マネジメントシステムだ。クラウド型電子カルテにiPhone/iPad/Apple Watchなどのデバイスを組み合わせ、入院時だけでなく退院後も患者マネジメントを継続する仕組みである。Apple社はデータ管理には関与しないプラットフォームベンダー、Epic Systems社は電子カルテベンダーといった具合に、立場や狙いに違いはあれど「3者それぞれにインセンティブが働く領域で協力できている。こうした形は日本でも真似できるのではないか」(福島氏)。

 製薬大手によるヘルスケアベンチャーへの投資でも、先を行くのは米国だ。過去2年半で300件を越える投資が行われており、そこでは企業同士が「競合するのではなく、(市場創造のために)協働している」(同氏)。

 こうした動きに日本が追いつくためには、ヘルスケアベンチャーと組む企業側にどのような姿勢が求められるのか。福島氏が第一に指摘したのは、大企業が陥りがちな“上から目線”からの脱却。ヘルスケアベンチャーは「勝ち組が非常に限られる。そのため、(協業の)交渉の場ではむしろヘルスケアベンチャーの方が立場が強くなる。自社のオフィスにベンチャーを“呼びつける”ような態度では、力の弱いベンチャーとしか組めないだろう」。

 このほか、両者の時間軸のずれ、マネジメントにおけるリーダーシップの不足、現場から離れて行われる意思決定、などの克服が求められると福島氏は話す。ベンチャーが何らかの成果を出すのに「基本的に4年はかかる」(同氏)ことを念頭に、長い目で事業を育てる姿勢を持つこと、CEOなどのトップマネジメントが協業に直接関わることなどがとりわけ重要という。

“暗い、難しい”からの脱却を

登壇したGopal氏
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 続いて講演したMSDのGopal氏は、ヘルスケアベンチャー支援への同社の取り組みを紹介した。同社の親会社である米Merck & Co.はかねて、ヘルスケアベンチャーへの投資に積極的だ。Global Health Initiative Fundと名付けたファンドを発足させたほか、Health Services & Solutions部門では、企業買収などを通じてヘルスケアに関する知見や資産を社内に取り込んでいる。

 同社がヘルスケアベンチャー支援で狙うのは、製薬企業としての「知恵と経験を伝えることで(ベンチャー企業が持つ)ソリューションをスケールさせる」(Gopal氏)こと。これが「医療の質やイノベーションの水準を高めていく」(同氏)ことにつながると見る。

 米国本社での取り組みを受け、MSDが2016年2月に日本で立ち上げたのが、ヘルステックプログラムだ。日本では「ヘルスケアは“暗い”“規制が厳しく難しい”といったイメージを持たれがちで、企業がこの領域にあまり入ってこない。ヘルスケア分野の人とは話がかみ合わない、ともささやかれる。こうした弊害を、製薬業界が作ってきた側面もあるのかもしれない」(Gopal氏)。そこでヘルステックプログラムでは「オープンイノベーションというマインドセットをこの業界に浸透させる」(同氏)ことを狙う。

 昨今のICTの進化を「ヘルスケアに活用しないのはもったいないが、そのためには(用途に応じた)テーラーメード化が必要。そのための知見を我々が提供し、プログラムを動かしていく。ぜひこの取り組みから、日本におけるヘルスケアの成功事例を作りたい」。そう同社は意気込む。