大企業は“ベンチャー優位”を認識せよ

 その1つが、Apple社とEpic Systems社、Ochsner Health Systemによる、EMR(電子カルテ)とPHRを統合した患者マネジメントシステムだ。クラウド型電子カルテにiPhone/iPad/Apple Watchなどのデバイスを組み合わせ、入院時だけでなく退院後も患者マネジメントを継続する仕組みである。Apple社はデータ管理には関与しないプラットフォームベンダー、Epic Systems社は電子カルテベンダーといった具合に、立場や狙いに違いはあれど「3者それぞれにインセンティブが働く領域で協力できている。こうした形は日本でも真似できるのではないか」(福島氏)。

 製薬大手によるヘルスケアベンチャーへの投資でも、先を行くのは米国だ。過去2年半で300件を越える投資が行われており、そこでは企業同士が「競合するのではなく、(市場創造のために)協働している」(同氏)。

 こうした動きに日本が追いつくためには、ヘルスケアベンチャーと組む企業側にどのような姿勢が求められるのか。福島氏が第一に指摘したのは、大企業が陥りがちな“上から目線”からの脱却。ヘルスケアベンチャーは「勝ち組が非常に限られる。そのため、(協業の)交渉の場ではむしろヘルスケアベンチャーの方が立場が強くなる。自社のオフィスにベンチャーを“呼びつける”ような態度では、力の弱いベンチャーとしか組めないだろう」。

 このほか、両者の時間軸のずれ、マネジメントにおけるリーダーシップの不足、現場から離れて行われる意思決定、などの克服が求められると福島氏は話す。ベンチャーが何らかの成果を出すのに「基本的に4年はかかる」(同氏)ことを念頭に、長い目で事業を育てる姿勢を持つこと、CEOなどのトップマネジメントが協業に直接関わることなどがとりわけ重要という。