「Power, Parallel Autonomy, and People」。こう題して語り始めたのは、Toyota Research Institute(TRI)社CEOのGill Pratt氏。トヨタ自動車が今年1月に設立した人工知能関連の研究子会社を率いる人物だ。GTC 2016最終日の基調講演に立った同氏は、前職でプログラムマネージャーを務めた米DARPA(国防高等研究計画局)の研究プロジェクトなどを引き合いに、今後の研究開発の方向性や自動運転に関する考えを述べた。

 まず話したのが、「Power(電力)」についての考え方。現在の自動運転車が何千Wもの電力が必要なのに対し、人の脳は30Wしか消費しないと指摘した(図1)。動力でもロボットと比べて馬などの動物は100倍も効率が高いと語り、生物の効率の良さは、器官は複雑でも、そのごく一部しか使わず、他の部分は休めていることに依ると主張した。

図1 白昼夢を見ている時も30W
図1 白昼夢を見ている時も30W
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 同氏は生物に学んだハードウエアの例として、DARPAの「SyNAPSE(Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics)」プロジェクトの一環で開発された米IBM社の脳型チップ「TrueNorth」を挙げた(図2)。それでも脳と比べると1000倍効率が悪いという。このため、動作時にハードウエアのごく一部しか動かない構成を取るなどして、さらに電力を下げる努力が必要とした。講演終了後の質疑応答では、「TRI社だけで解決できる問題ではなく、世界中から新しいコンピューターのアイデアを探したい」と語った。

図2 脳型チップでもまだ足りない
図2 脳型チップでもまだ足りない
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