私的な思い出話で恐縮だが、私は子供のころ、あまりにも親の話を聞かないことを見かねた父に次のように諭されたことがある。「いいことを教えやるよ。大人の言うことは大体正しい。だからしっかりと話を聞け。でも大体なんだから、自分でもよく考えろ」。最後の一言が本当に必要だったかどうかは定かではない。しかし、その部分が一番印象に残り、今でも鮮明に覚えている。
半導体チップほど、さまざまな分野の専門家や権威者の英知を集めて作られている工業製品は少ないのではないか。電子工学、化学、物性物理学、情報処理学、制御工学・・・。それぞれの分野の最新の研究成果が投入されている。そして、高度な各分野の知見が投入されているが故に、畑違いの分野については同じ半導体技術者であっても意外と深く理解していない。
このため、新しいアイデアを思いついても、その道の権威が「それは無理だ」と言い出したら最後、反論することもできないままお蔵入りになることが多い。特に、半導体の製造プロセスで新しいアイデアを試すために巨額の費用がかかるようになってからは、そうした安全志向の判断が働く傾向が強まったのではないか。その道の権威の意見は、正しい筋道で技術開発を進める上で有用だ。しかし、無批判に鵜呑みにしてしまうと、技術の進歩はない。
「半導体、Å時代はくるのか?」と題して、半導体のÅ時代の意義と、そこでの課題を洗い出している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。同氏は、革新的な技術が次々と現れて進化し続けてきた半導体の微細加工技術開発の歴史を振り返り、これからの技術開発にどのような心構えで取り組むべきかを論じた。
微細加工研究所 所長
