京都に三共精機という興味深い会社があります。1942年創業の老舗企業で、社員は50人規模。ものづくりを支える工作機械などを扱う商社です。同社が面白い点は、10年ほど前から究極のファンをつくる取り組みに全社員を挙げて取り組んでいることにあります。

 その取り組みは、社員ブログ。全社員が会社のウェブサイトで顔写真とともにブログを書き続けているのです。キッカケは2004年に経営理念の作成と会社のウェブサイトの立ち上げを手掛けたこと。1年近くをかけ、自社の優れた点や、自分たちがどこに進んでいくのかについて、社員が角突き合わせて根本から議論しました。

 そこで生まれた理念は、「自分たちが発信の起点になる」ということでした。そのときに始まった取り組みの一つが、社員ブログだったのです。2004年といえばADSLが主流で、FTTHの普及が本格化し始め、ブロードバンドがようやく当たり前になろうとしていた時期。今ではよく見掛けるようになった社員ブログの運用開始を、三共精機はこの時期に決断し、10年間継続してきました。

ネット時代にモノを売るということ

三共精機の石川 武社長(写真提供:三共精機)
三共精機の石川 武社長(写真提供:三共精機)
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 なぜ、社員が発信する必要があるのか。「それは、我が社が商社だからです」と、三共精機の3代目として会社を継いだ石川武社長は言います。「今は何でも簡単にネットで買えてしまいます。単にモノを売っているだけでは商社としての存在価値がなく、我々は存在していけません」。

 ネットによる販売では実現できない企業としての存在価値をビジネスの現場で提供する。顧客の課題を現場で解決できているから、ネット時代でも必要とされている。こう石川社長は話します。

 例えば、工作機械を購入した顧客は、どのように生産ラインを構築したらいいか。自動搬送システムの間に落ちてしまった部品をどう処理するか。製造現場が抱える課題は機械を買うことだけではなく、むしろその後にあります。

 単にモノを売り、需給のバランスの中で四苦八苦するのではなく、その外に立って需要を掘り起こしていく。これからのものづくりは顧客が抱える課題を解決することに焦点を当てるべきで、社内外のさまざまなリソースを持つ人々や企業を巻き込むことが必要となります。

 これを石川社長は「不連続の連続を起こすこと」と捉えています。仕事の過程で不定期に発生する課題をつなぎ合わせて連続的に解決していかなければならないからです。三共精機の取り組みは、「ものづくり」から「ことづくり」への改革だったと言えるでしょう。

 この改革を実現していくために三共精機が手掛ける取り組みは、さまざまな分野に広がっています。京都の森林を守り育てる京都モデルフォレスト協会が手掛ける運動に参加したり、障害者雇用納付金を課される規模ではないにもかかわらず率先して障害者を雇用したり、大学コンソーシアム京都などと連携して毎年4人の学生インターンを受け入れたりしています。

 いずれもビジネスの成果には直接的につながらない活動です。社員50人程度の規模にもかかわらず、積極的にこうした活動に取り組む理由は、社内外の人々が集う「寄りしろ」という「場」をつくることにあります。社会の寄りしろになれる企業には人が集まる。面白い人の周りに人が集うように、面白い会社にも会社が集まってきます。

 それが会社としての魅力につながり、魅力を増した企業にはいずれチャンスが巡ってくる。10年間続く社員ブログの背景にも、この考え方があります。