鋳造技術の見える化
鋳造技術の見える化
高度な薄肉鋳造品を作り出せる超高速液相鋳造を実現したのは、熔湯の射出スピードを高めたり金型内の抵抗を減らす工夫によるが、鋳造工程の各部をシミュレーションにより見える化したことが貢献している。
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ミッションケース加工ラインに並ぶ汎用工作機械
ミッションケース加工ラインに並ぶ汎用工作機械
マシニングセンタとマルチアクセス可能な治具により、わずか2工程にまとめあげられた切削加工工程。加工後は、そのまま刃物をプローブに交換して加工部分の測定を行なうインライン測定まで行なうことで、スピードと精度を高めている。
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ミッションケース加工技術の革新
ミッションケース加工技術の革新
従来の専用加工機は一度に複数の加工を行なえる反面、単純な動きに限定されるため、異なる加工ごとに工作機械を開発、設置しなければならなかった。それに対し、マシニングセンタを活用することでわずか2工程に単純化した。これにより正味加工時間が増え、フレキシブル性も高まった。
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ミッションケーズに刻まれる二次元バーコード
ミッションケーズに刻まれる二次元バーコード
鋳造時、加工時、組み立て時とそれぞれ仕様の異なるバーコードを用いることで、同じ番号でも各段階のトレーサビリティを可能にしている。
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トレーサビリティ活用事例
トレーサビリティ活用事例
各ラインごとでトレーサビリティを導入することで情報をビッグデータ化し、工作精度を維持しやすくすることで生産効率を高めている。
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AT組み立てラインの様子
AT組み立てラインの様子
4速から6速までの横置きATをこのラインで混流生産。組み立てる工程ごとに使用する工具を設置して、右から左に移動しながら組み立てを進めていく。それにしても熟練作業員たちの手際の良さには驚かされる。瞬く間に複雑なATが組み上げられていくのだ。
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縦置きMTの検査工程
縦置きMTの検査工程
組み立てが終わった変速機は規定の性能が確保されているか機能を検査する。さらに縦置きMTはダイレクトシフトということもあり、繊細な感覚をもつ作業員がシフトフィールまで丹念にチェックするのだ。
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 山口県防府市にあるマツダの防府地区・中関工場。車両を組み立てる西浦工場、変速機を生産する中関工場がある。特に中関工場は、マツダの全生産台数の83%分の変速機を生産するほか、変速機のギアに関してはほぼ全量を製造し、一部を海外の工場へ向けて出荷している。現場からレポートする。

 中関工場は、加工工程ごとにエリアで区切られている。主に、ダイキャストライン、変速機のケース加工ライン、ギア加工ライン、熱処理ライン、組み立てライン━━で構成されている。トルクコンバーターやクラッチ、センサーやスイッチ類などは部品メーカーから調達し、小さなプレス部品などは地元の下請け工場に生産を委託しているが、内製率は高い。

 ダイキャストラインは、アルミ合金のインゴットを溶かす溶解炉が3基、型締め力2000tクラスのダイキャストマシンが9基、ショットブラスト3基━━で構成する。ダイキャストマシンは、型締め力が2000tと、大型のものだ。これは変速機のケーシングという比較的大きな鋳造製品を精密に作り出すためには必要な設備なのである。

 精密な鋳造をする最大の目的は、軽量化だ。スカイアクティブ・ドライブの横置き6速AT(自動変速機)のケーシングは、従来の5速ATと比べて薄肉化を図ることで大幅な軽量化を果たした。従来の5速AT用が13.5kgなのに対し、10.5kgと2割以上も軽い。

 これを実現したのは同社が開発した超高速液相鋳造技術である。鋳造はその製法上、湯回りに時間がかかるとアルミ合金が半凝固状態となり、金型の細部にまで行き渡らせることができなくなったり、鬆(ス=素材中の気泡など)も発生しやすくなる。そこで熔湯を送り出すスピードを高め、熔湯が金型に注ぎ込まれるまでの配管を短縮し、湯口を広げ、金型内の真空度を高めることで高速充填を実現したのだ。

 そうした技術的な対策だけでなく、見える化を図ることでその効果を最大限に引き出しているのが特徴だ。金型内部での熔湯の流れをシミュレーションすることで、熔湯から発生するガスを確実に抜くことができるようになった。

 金型の冷却技術についても革新ぶりを感じさせた。鋳造後には金型内部に冷却水を循環させて冷却することで鋳物の強度を安定させてから取り出すのだが、従来は金型から取り出す際にピンで鋳物を押し出していたため、押し出しピンとの干渉を避けるため水路に制限があった。そこで金型の構造を変えることにより押し出しピンを不要とし、効率の高い水路を組み込むことで冷却性を高めた。

 押し出しピンを廃止しつつ金型に塗布する離型剤についても、シミュレーションで金型の温度や形状の複雑さから塗布量を算出し、無駄を抑えて必要最小限の塗布で済むようにしている。これらの改革が結果的には製作時間の短縮にもつながり、生産スピードは従来の1.5倍と、サイクルタイムは世界ダントツのレベルを実現しているそうだ。

 続くミッションケース加工ラインでも、革新ぶりは目覚ましい。鋳造されたケースに穴や溝などを刻むことで部品として完成させるのだが、従来は複数の穴開けなどの加工が一気にできる専用工作機械を使用していた。42工程をいくつもの専用機で加工していたのだ。しかし専用機ではフレキシブル性が低く、各工程を担当する機械へのケース部材の脱着にも時間がかかる。そこで設計側の工夫もあって何と工程を二つにまで単純化したのである。

 2工程といっても刃物が仕事をするのが2回だけという意味ではなく、治具に変速機のケースを固定したまま、刃物を交換したり治具を回転させることで続けて切削加工を行なうのが一つの工程。治具から取り外して、また別の工作機械に治具を介して取り付け、加工する。この工作機械への脱着作業が2回で済む、ということだ。これは治具の構造を見直し、治具を回転させることで多方面から続けて加工ができるマルチアクセス化によって実現した。それによって加工作業における切削を行なっている正味加工時間の割合は、89.3%に高まっている。従来の専用機による45工程作業では、正味加工時間は48%でしかなく、作業時間の半分以上は治具への脱着や搬送に掛かっていたそうだ。