──とはいえ、日本の自動車メーカーはまだまだ鋼を多く使っています。その点ではトヨタ自動車も変わりません。

影山氏:確かに、鋼は優れた材料ですし、日本は鉄鋼メーカーの技術力が高いという背景があり、日本の自動車メーカーの間には鋼に対する高い信頼感があります。これに対し、欧米では樹脂メーカーが強く、良い材料があれば使っていくという考えの企業が多い。ドイツの自動車メーカーもそうしたスタンスをとっています。

 しかし、日本の自動車メーカーも適材適所の発想でボディーなどを設計しています。従って、使えるところまで鋼を使い、鋼では性能が足りない箇所や攻めるべき(軽量化などの特徴を押し出すべき)ポイントでCFRPのような新材料を効果的に使っていくことを戦略的に考えています。将来的にはここにCNFが入ってくるかもしれません。

 いずれにせよ、いつまでも鋼だけに頼っているわけにはいかないのです。

──日本企業はCFRPへの取り組みで遅れているのですね。

影山氏:遅れているかもしれません。日本では鋼に関して品質と価格、そして安定供給のバランスが取れています。クルマを造る上では、現場に出るほど粗(あら)が見えてくる。CFRPのような新しい材料は、使った経験がないから生産現場でいろいろな課題が出てくる可能性がある。そのリスクはありますが、それでも軽量化などを進化させるには、乗り越えていかなければなりません。

 例えば、CFRPは溶接ができないため、接着剤を使う必要があります。鋼には疲労限度がありますが、接着剤には明確な疲労限界が見えないと言われます。加えて、環境に敏感なところもあります。

 しかし、日本の自動車メーカーもマルチマテリアルボディーに高い関心を寄せています。その鍵を握る材料の最有力候補がCFRPであることは明らかです。現行のクルマは鋼ありきの構造や造り方、売り方となっています。しかし、CFRPがメインの材料になってきたら、CFRPならではの構造や造り方、売り方になるはずです。それはまだ確立されていません。だからこそ、チャンスがあると言えます。

 現にBMW社はCFRPならではのボディー構造や造り方に挑戦しています。トヨタ自動車も元町工場にCFRP製部品の生産ラインを造っています。「LFA」のCFRP製ボディーや、FCVの部品、プリウスPHVのバックドアの生産拠点になっているのです。