トヨタで2つの革新工法に挑戦


──トヨタ自動車もCFRPの採用に積極的だと思います。価格が3750万円と高額の、いわゆる「スーパーカー」のため量産化とは言えないまでも、CFRP製ボディーを採用したクルマの商品化では、「レクサスLFA」(以下、LFA)がi3に先駆けています。

影山氏:私はトヨタ自動車時代にLFAの開発を手掛けました。実は、LFAの開発には、大きく2つの目的があったのです。1つは、トヨタ自動車を代表するスーパーカーを開発すること。そして、もう1つは量産性を要する自動車の新材料としてCFRPが使えるかどうかについて知見を深めることだったのです。言い替えると、LFAは量産車にCFRPが使えるか否かの「試金石」だったというわけです。

 ここで私たちは2つの革新工法に挑戦しました。1つはRTM(レジン・トランスファー・モールディング)法。炭素繊維の織物を予備成形して製品形状のプリフォームを造り、これを金型にセットして樹脂を含浸させた後、固める成形法です。もう1つは、SMC(シート・モールディング・コンパウンド)法。SMCは不連続の炭素繊維を均一に分散させ、そこに樹脂を含浸させたシート状の中間基材。これを金型にセットしてプレス成形しながら加熱して固める成形法です。いずれも量産性の実現を見据えたCFRPの成形法として開発したのです。

 というのは、既存の成形法だったオートクレーブ成形では、プリプレグ(炭素繊維に樹脂を含浸させたシート)を高温高圧の圧力釜(オートクレーブ)で何時間も加熱して固めていました。一昼夜、すなわち12時間かかることも珍しくありませんでした。これに対し、私たちはRTM法のサイクルタイムを当時約1時間まで縮めました。加えて、実力的には5分程度での成形も将来は可能であることまで確認しました。一方、SMC法のサイクルタイムは実力的には3分以下に短縮することも可能であることを確認しました。これにより、将来的にCFRPをクルマ向けに量産できるという知見を得たのです。事実、その後も技術開発が進み、今では成形サイクルを1分以下に縮める挑戦が続いています。


──CFRPの専門家の視点から見て、BMW社のi3が優れているところはどこですか。

影山氏:ほとんどの工程を自分たちで担っていることです。原料であるポリアクリロニトリル(PAN)こそ三菱レイヨンの広島工場から仕入れていますが、彼らは米国で炭素繊維を造り、ドイツでCFRP製ボディーに成形しています。ちなみに、成形法はRTM法の改良版で、成形サイクルは7分とBMW社は公表しているようですが、実力的にはもっと速く成形できるはずです。

 ほとんどの工程を自ら手掛けるということは、初期投資が掛かる点を除いて、製造コストを下げられるということです。要は、CFRP製部品をより安く造れる。逆に見れば、そこまで思い切った投資を行ったということは、CFRPの量産化にBMW社は本気であるという証拠です。i3に限らず、今後、他の車種にもCFRPを展開することでしょう。

 加えて、工程を多く手掛けるほど、Q(品質)C(コスト)D(納期)に磨きをかけることもできます。つまり、ものづくりの「本質」を見極める眼力が身に付くため、技術力も磨けます。CFRPについて炭素繊維から自動車部品まで見通しているのですから、BMW社はCFRPに関して相当な技術やノウハウを溜めているはずです。将来の大量生産時には、その全体感を基にCFRPならではのサプライチェーンが出来れば面白いですね。