エムテド代表取締役 田子 學 氏
エムテド代表取締役 田子 學 氏
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 効率追求を重視し、安価な製品を大量に速く造ることに長けている一方で、イノベーションの創造は苦手だと言う日本企業は多い。こうした中、デザインの視点を根幹に据えた経営手法「デザインマネジメント」に着目する日本企業が増えている。

 「技術者塾」において「一気通貫のものづくりへ 実践! デザインマネジメント」の講座を持つ、エムテド代表取締役の田子學氏にデザインマネジメントを学ぶ利点を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──デザインマネジメントが注目を集めています。なぜ今、日本企業においてデザインマネジメントが求められているのでしょうか。

田子氏:デザインマネジメントとは、デザインの視点を根幹に据えた経営手法のことです。デザインの対象になるのは意匠だけではなく、商品のコンセプトやビジョン、それを実現するための設計/技術、広告宣伝、さらにはプロジョクトの進め方やユーザー体験など広範に及びます。プロジェクト全体をデザインすることで一気通貫したものづくりを実現していきます。

 確かに、今、デザインマネジメントに注目する日本企業が増えています。しかし、日本においてデザインマネジメントが注目されるようになったのは最近のこと。デザインマネジメントという概念自体は新しいものではなく、欧米では1960年代には既に確立されていた学問領域です。「デザインは経営において必要不可欠である」。こうした認識が半世紀前から欧米には存在していたということです。

 事実、米アップル社や米グーグル社、独アウディ社、英ダイソン社など、名だたる欧米の企業はデザインと経営を密接に結びつけて成果を上げています。

 世界は情報化社会の到来以降、ナレッジワーカー(知識労働者)が効率を重視した経営を繰り返し、ものや情報があふれかえるようになりました。多くの日本企業も、これまでは効率ばかりを追い求めてきました。その結果、現代はものが充足しすぎて「売れない時代」に突入しています。

 ここで今、必要とされているのが、右脳的思考を得意とする人々です。つまり、感性的で美しく情動に訴えかけることや、発想そのものに独自性が求められている時代なのです。米国の作家であるダニエル・ピンクも著書「ハイ・コンセプト─新しいことを考え出す人の時代─」の中で、ナレッジワーカーの次はクリエイターや他人と共感できる資質を持っている人であると述べています。

──デザインマネジメントは、今後ますます必要とされるようになるのでしょうか。

田子氏:デザインとは色や形といった断片的な問題解決を目的としているのではなく、物事の本質を捉え、包括的に全体最適化されたシステム構築を目指すものです。また、ロジックから実現までのプロセスを一気通貫で体現できることがデザインの強みであり、すなわちデザインマネジメントの最大の特徴です。そのため、複雑化する社会問題を包括的に解決するアプローチの1つとして、デザインは今後ますます必要とされているのです。