──これまでも大手部品メーカーは、パイロットプロジェクトの試行などを通じて、対応準備を進めてきた。最近は、完成車メーカーからの要求仕様に、ISO 26262への対応が正式に盛り込まれ始めており、全社や取引先への展開など、本格的な対応が求められている──と伺っています。では、現在ISO 26262に対応できている日本企業はどれくらいあるのでしょうか。

山内氏:ISO 26262への対応は、企業として認証を一度取って終わりというものではなく、開発プロジェクトごとに対応することが求められるものです。

 そのため、同じ企業でも製品が異なれば対応状況も異なるというのが現状です。また、製品や自社で開発する範囲によってもISO 26262への対応に求められる内容が異なりますので、対応できている企業を一概に何社と回答することは、あまり有用な情報ではなないかもしれません。実は、ISO 26262への対応について対外的な事例発表をしている企業でも、まだまだ未着手という部署が多いというのが現状です。

──なぜ、そうした状況になっているのでしょうか。

山内氏:正直に言えば、組織として真剣に機能安全の必要性を考えていない企業がまだまだ多いと感じます。これからISO 26262への対応に着手したいという企業の方から相談を受ける機会もたくさんあります。そうした企業では、顧客と対峙している現場の担当者が対応の進め方を真剣に検討している一方で、上層部からは「そんなことに労力をかけるな」「部分点を狙って顧客に納得してもらえ」と言った指示が出されていることもあります。

 これでは本質的な機能安全対応はいつまで経っても実現できません。もう一度、機能安全対応の必要性を考え直してみてはいかがでしょうか。

──ソフトウエア開発プロセスをISO 26262に対応させる上で、典型的な失敗事例を教えてください。

山内氏: 私自身がよく見かける典型的な失敗事例があります。それは、ISO 26262に書いてある通り、またはコンサルタントに言われた通りに、「理想的だが、実行不可能なプロセス」を定義してしまった結果、形骸化に陥ったという事例です。私はコンサルタントとしてさまざまな企業のプロセス改善を手伝っておりますので、これは私自身が最も注意していることでもあります。

 プロセスを定義する本当の目的は、ISO 26262の認証を取るためではないはずです。安全性の高い製品を開発したい。そのために、設計の論理的根拠を体系的に説明できるようにしたい。特定の人に依存せずに開発が進められるように、組織にノウハウを蓄積したい。その他にもさまざまな本来の目的や目標があることでしょう。

 その本来の目的や目標を明確にし、それらを実現するための手段としてプロセスを考えていただきたいと思っています。

──技術者塾の講座では、何をどのように学べるのでしょうか。また、それにより、どのような効果が得られますか。

山内氏:本講座では、私自身がこれまでにエンジニアとして経験してきた車載電子システム開発のノウハウを、受講者の方々の目線で詳しく紹介します。

──書籍「ISO 26262 実践ガイドブック ソフトウエア開発編(実践ガイドブック)」と技術者塾の講座との関係を教えてください。この書籍がなくても受講できますか。

山内氏:本講座では、実践ガイドブックに掲載されている各種技法について、適用時の勘所や注意点、それを実現可能なツール、完成車メーカーの要求のトレンドなど、ボリューム的に書籍には書ききれなかった内容を加えて詳しく解説する予定です。

 書籍がなくても受講は可能ですが、本講座の資料には書籍の該当ページのページ番号を振っておりますので、本講座の復習には書籍と照らし合わせて見ていただくことをお勧めします。